きみと毛布にくるまって ページ40
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「柚宇さん、訓練室使いたい、です」
「……おいよ〜ちょっと待ってねぇ。もう少しでセーブできる」
嬉しそうに頷きそれまでの換装体を解く彼女を見て、国近はもうそんな時期か、と思った。彼女の要望を叶えるべくコントローラーを置き「コートはちゃんと着てね」と注意すると、彼女は素直にコートを着込んだ。
国近はゲームのセーブが出来た事を確認するとゆっくりと腰を上げ、自分のデスクに向かって慣れた手つきで「市街地A・夜・雪」と入力していく。無事形成されたのを確認すると「あんまり長くいちゃダメだよ。風邪ひちゃう」と注意するも今の彼女は話を聞いていないのだろう。適当な返事とともに訓練室に消えていく背中を見送り国近は再びコントローラーを握った。
「ウーッス」
「あれ?小鍛冶は?やっと小鍛冶と遊べるから遊んでやろうと思ったのに」
「それ太刀川さんが遊びたいだけでしょ……」
「Aちゃん今訓練室〜冬だからちょっとさみしくなってるみたい」
彼女が訓練室に消えてそう暫くしない内に隊室にやって来た太刀川と出水は、国近から彼女の所在を聞「あぁ……」と納得した声を出した。
小鍛冶は県外スカウトでボーダーに入隊した。
比較的温暖であまり雪の降らない三門市とは違い、彼女の住んでいた場所は雪国で、毎年冬が来る度に彼女は故郷を思い出して訓練室にこもる時期がある。今年は大規模侵攻もあってそんな余裕が今まで無かったようだが脅威の去った今になって彼女は故郷が恋しくなったのだろう。言ってしまえば軽いホームシックだ。
だからこの時期になると国近に頼み雪の降り積る訓練室に1時間2時間ぼんやりと居座るのだ。
元より太刀川隊の人間は自分の隊室の訓練室よりもブースに出て対人戦に勤しむ好戦的な人間ばかりなので、彼女が何時間私用で訓練室に居座っても誰も困らないし、誰も文句言わなかった。
「おれらも行きましょうよ」
「お、いいな。雪って三門市じゃ珍しいしな」
「柚宇さんは?」
「私寒いからパス〜その代わり鍋用意しとくね。今日来る途中鍋したくて今ちゃんと色々買ったんだぁ」
「お、国近ナイス」
「でしょ〜だからあんま長く遊んでないでね」
2人からの返事を聞き国近はいい所でゲームを切り上る。
どうせ2人も彼女と遊んでから戻ってくるのだ。今のうちに準備して3人が戻ってきた頃にはすぐ鍋が食べられるようにしておいてやろう、そう国近は思いながら鼻歌を歌い冷蔵庫を開けた。
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作者名:40 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月3日 0時