初めまして、私自身を見てくれた人 【あんスタ】【鬼龍紅郎】

序章　　　彼の代わりとして生きる。 ページ1

双子の兄は突然いなくなる。


　海に行くと言っていなくなる。


　だから、私は代わりになる。


　それが、片割れを愛す一つの愛情表現だから。


　＿＿＿＿＿＿





　青いネクタイは２年生だということを物語る。
　片割れはこの青を大層気に入っていた。


　同じ色の髪は短く整えて、
　ぴょこりとはねる髪はきっと遺伝だろう。
　体格に無理があるかもしれないが、
　片割れは華奢な体格だ。
　細く脆く、白い体をしているのだ。





　「おぉ！ 奏汰くんではないか！」





　黒い髪を揺らす人物。
　同じ三奇人と呼ばれる朔間零。
　彼は私に気づかない。





　「む？ マスクなんて珍しいのう、風邪か？」





　やはり声は片割れとは違うので、
　片割れとして学校に行くときは風邪という設定にしている。

　彼の言葉に頷けば、そうかと納得してくれた。





　「おっと、つい話し込んでしまったな。


　風邪をひいとるなら水浴びは止めたほうがいいのう。


　お大事になぁ」





　けらけらと笑う彼を見送り屋上へと向かう。
　唯一この学園で私が私になれる場所。

　片割れは無理をしなくていいと言った。
　でも、愛しい片割れを「力を無くした奇人」と思われたくないのだ。
　彼が学園に行かなくなることで「逃げた」と言われるのが嫌なのだ。





　私は彼が好きだ。
　彼が紡ぐ歌が好きだ。
　彼が舞うダンスが好きだ。
　彼が見せる笑顔が好きだ。


　だからこそ、彼を「堕ちた奇人」と呼ばせたくないのだ。





　ドアを開ければ世界が広がる。
　私１人の世界が広がる。
　ここは私だけの世界。


　マスクを外し、空を見上げる。
　片割れは力を無くしてなんかない。
　彼は彼だけの世界を持っている。





　「〜〜〜♪」





　私は歌が好きだ。
　それが片割れに劣ったとしても、歌が好きだ。
　声楽科を選択したのもそれが理由だ。



　いまこの空間で、この歌だけが私は私だと証明してくれる。









　＿「深海？」





　視界の端で赤が舞った。



　そのとき、私の中で何かが壊れた。


　それは仮面か、本心か。


　でも、確かに何かが壊れてしまったのだ。

１話　　　あぁ、自己犠牲万歳→

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