1.辛さだって何だって ページ1
「今日もよく頑張っとったなぁ、Aちゃん」
疲れで重くなった私の頭を、彼は優しく撫でてくれた。
そんなことを言う彼も絶対疲れているはずだし、疲れた〜と言いながらソファに身を投げ出したいのは同じはずだけれど、彼は疲れた素振りは見せず、完全にぐったりとしている私に、「頑張ったな」「Aちゃんはお利口さんやね」と優しい言葉を投げかけてくれた。
そんな彼の包容力には、いつも驚いてしまう。どうして、彼は笑顔でいてくれるのだろう。
「頑張り過ぎは体に良うないで?」
その言葉に頷くと、彼は「Aちゃんが体壊してしまったら、ワイの寿命縮まってまうで」と再び頭を撫でてくれた。
彼の優しい掌の感覚。
私よりも、ずっと大きい掌。
しかし、ふと彼はその掌を頭から退け、残念そうに彼を見つめる私の方を見て言った。
「晩御飯、ちゃんと食べたん?」
その言葉に対し、私は言葉で答える代わりに、首を横に振る。
「晩御飯食べんのは、体に悪いで。せやったら、ワイが・・まぁ、大したモンは作れへんけど・・作ったる。Aちゃんは、ここでしばらく待っといてな」
そう言って、彼はソファから立ち上がった。
1度決めたら、何か大事が無い限りは意見を曲げない彼のこと。私が今、もしいらないと言っても、絶対に作ってきてくれるはず。だから、申し訳ない気持ちを感じつつ、彼が作ってきてくれるという晩御飯を、私は素直にソファの上で静かに待つことにした。
日本が誇るトップアイドルグループ、HE★VENS。そのメンバーのうちの1人、桐生院ヴァン。
女性に限らず男性からの支持も厚いアイドルの彼は、今現在、私と同居している。
それを知り合いに言うと、夢をこじらせているのか・・と身を案じられたこともあったけれど、実際、今ソファの斜め後ろにあるキッチンで、鼻歌混じりに晩御飯を作っているのは、桐生院ヴァン本人だから、それは事実だ。
「Aちゃんは焼きそば塩味かソース味かどっちがえぇ?」
キッチンの奥からそう言う彼の声は、少し上ずっている。
ソース味と答えると、彼は「わかったわ!もうちょい待っとってな!」という元気な声が響いた。
しばらく経つと、だんだんとソースと麺が焼かれた良い匂いが、こちらのソファまで届いてきて、先までの疲れが飛んでいくような美味しい匂いに、思わずお腹が鳴ってしまう。
「Aちゃん、ほら、できたで」
そう言って、彼は私の目の前に焼きそばを置いてくれた。
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作者名:抹茶&ナミネ☆ | 作成日時:2017年6月21日 14時