23歩目 ページ26
動くようになった右手を使いながらAは夕食を作りつつ蒼の帰りを待った。今日の夕食は餃子。タネも作り皮で包んで焼く本格なもの。卵スープも作り終わり準備は万端だ。少し手首は痛かったが、蒼が色んな手助けをしてくれたお陰で予定より早く治りそうで有難い。
「ただいま」
噂をすれば蒼が帰ってきた。食卓に用意を終えたAは迎えるために駆けていく。
「おかえり、蒼」
蒼はにこりと笑った。だが家の中から感じる美味しそうな匂いに目を見開く。
「兄さん料理したの!?駄目だよ智仁さんからあと1週間は掛かるって言われてたでしょ?痛くない?」
変わらない過保護っぷりに戸惑いつつAは大丈夫だと答えた。安静にすることも大事だが動かさないといけないのだ。逆に捻挫しやすくなってしまうから。
「そう?ならいいけど…」
蒼の眉が下がっている。不安そうに揺れる瞳から覗く心配にAは安心させるように微笑んだ。だがそこで、1つあることに気付く。
「何かあった?元気ないよ……?」
いつもとは何か違う。何がと言われるとはっきりしたものは無いが、元気がないのは確かだ。
予想は的中したようだ。蒼の顔が驚きから辛そうな顔に変化する。
「ちょっと色々あってさ。疲れちゃった」
今度はAが驚く番だった。普段弱音を吐かない蒼がそんなことを言うのだから余程辛いことがあったのだろう。同時に、聞いてはいけないことだと分かる。
「僕に出来ること、何かないかな?」
何とか元気づけたくなったAは思い付く限りのことを全て言った。だが蒼は大丈夫だよ、と微笑むばかり。完璧な弟にAが出来ることはない。それが分かって悲しくなった。
「兄さん」
サラリ、と蒼の髪がAの頬に掛かる。少しして抱き締められているとわかった。瞬間Aの顔が赤くなる。
「そ、蒼!?」
「……ごめんね。ちょっとでいいから、しばらくこうさせてくれないかな………?」
その声はあまりにも苦しそうな声で。恥ずかしいと離れてしまったら消えてしまいそうな感覚に陥ったAはそっと蒼を抱き返した。
「大丈夫だよ。蒼が望むなら、いつでもこうしてあげるから」
少しでも安心させたくてAはそう言った。蒼の心にどう響いたのかは分からないが抱き締める力を強めたので伝わったと願いたい。
ありがとう、ごめんね、と蒼が離れたのは夕食が冷めた頃だった。辛そうな微笑みに、Aの心もズキリと痛んだのだった。
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埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます!ありますよー!蒼くんの方が高いです!そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ! (2022年3月19日 7時) (レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます!更新頑張りますね!もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ!そこで完結です!夢主くんと蒼くんはどうなるのか!?麗は成敗出来るのか!?モモの正体は!?乞うご期待ですよ! (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2018年12月28日 1時