願い 4 ページ5
何時間経っただろう。あれから悪魔は家の中を物色し始めたので静かになった。ちらり見て驚いたが、壁をすり抜けて通っていた。科学では証明できない、異常なものなのだと今さら理解した。あれでもう少し態度が大人であれば、Aにもそれなりの畏怖の気持ちが出ただろうに。
今日ぶんの仕事もある程度終わり、やることがなくなった。テレビでも見ようか。いや、ゲームにしようか。
「おーいA」
どこからか悪魔の声が聞こえた。リビングから遠かったから、寝室だろうか。仕事も一段落したわけだし行ってやろう。
「何?」
「これ、何だ?」
案の定悪魔は寝室にいた。悪魔が差した指先にあるのは、病院からの診断結果が入った封筒だ。朝、悪魔がAの名前を知った紙である。
「病院からの診断結果だよ。毎回数値が書いてあるけど、僕は専門家じゃないから何がどういう状況なのか分からないんだよね。まあ、別にどうでもいいけど」
「病院?どこか悪いのか?」
確かに外に出ようとしないし肌は真っ白だし細くて折れてしまいそうだ。病気だと言われると納得してしまう。
「世間的には奇病とか言われる病気みたいだからよく分からない。治療法もないから治らないって断言されたし」
Aが患っているのは、簡単に言えば気絶してしまう病気だ。他と違うのは、気絶するとだんだん意識が戻るのに時間がかかること。医者が言うには、そのうち意識が戻らず死んでしまうらしい。
データがない以上、数値を調べているのは気休め程度だということが分かる。
「へー、ほー、病気なのか」
悪魔が返したのは適当な返事。少しムッとして悪魔を見ると、目を輝かせてこちらを見ていた。何なんだ。
「その病気、俺が治してやるよ!!もしかしてお前の願いはそれか!病気を治してほしいって願いなら叶えたことあるぞ。ついでに友達を作る特典をつけおこう!どうせ友達いないだろ。いやぁ意外とちゃんとした願いじゃないか!」
「違う」
ピシャリと否定され悪魔はしょんぼり顔になってしまった。
「病気があるのも友達いないのも事実だけど、治したくないよ。死にたいとは言わないけど死がきたら受け入れるし」
今までこんな人間を見たことがあっただろうか。悪魔は考える。こんなにも全て受け止める人間は始めてだった。
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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時