願い 23 ページ24
初めてAの心の内を聞くことが出来た。でも願いではなく、彼がずっと生きることを抗わなかった理由だ。彼は彼なりにずっと悩んでいた。
「……やっぱり、僕には無理だよ。もう体が持たないだろうし」
何度も涙を拭いながら小さく呟く。
「何を言うA!ここには俺がいるじゃないか!願いを叶える素晴らしい悪魔が!!」
少しでも元気になってほしくて、願いを聞きたくて、オルバは声を上げる。
Aはポカンと見上げると、クスッと笑う。
「そうだね」
今までのAなら「相変わらずうるさい」ぐらいまで言いそうだが違うみたいだ。ずっと心に留めていた思いを言葉にしたことで軽くなったのかもしれない。
いい傾向だ!これなら願いを言ってくれるかもしれない!
「よしきた!準備は出来てるぞ!さぁ願いを―――――」
体の中で力が湧き上がっていた。願いを叶えるための魔力が体内を駆け巡りすぐにでも具現化することができた。彼の願いは何だろう。「病気を治してほしい」だろうか。それとも欲張って「病気を治して、給料の良い会社に就職したい」だろうか。今なら特別だ。どっちも叶えてやろう。
「でも願わないよ」
「……え?」
駆け巡っていた熱が、一気に冷えた。大好きなものを目の前で潰されたような感覚。くれ騙しされたようで少し怒りが湧いた。
「何故だ!?今いい感じだっただろう!俺がいるんだぞ!何でも叶えられるぞ!病気を治したいだろう!」
Aは首を振った。
「悪魔の言ってることは正しいよ。自由になっていいって言われて嬉しかった。でもごめん。やっぱり母さんたちに会いたいや。だから僕に取り憑いてても無駄だよ。契約を解除して、他の人に取り憑いた方がいい」
それはAの優しさだった。この悪魔は自分が束縛していいものではない。自分に取り憑いている限り彼は願いを叶えられないし、つまらない日々を過ごしていく未来が見える。
悪魔からは返事がない。見上げると悪魔は驚いたようにAを見ていた。それから悪魔らしからぬ笑顔を浮かべる。
「いかない。どこにもいかないさ。ここにいると約束する」
Aは気付いていないだろう。今のAの瞳が不安そうに揺れていることに。話している声のトーンが落ちていることに。表情が、悲しみを必死に隠そうとしていることに。
「……せっかく離れるチャンスなのに」
「言ったじゃないか、Aの願いを聞くまで離れないって」
馬鹿、と言うAの表情は見たことがないほど柔らかかった。
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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時