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番外編 ・ そらるさん編 【熱と傷跡】 ページ45

そらるside


「久しぶりだね、そらるくん」

…相変わらずの笑顔だ。馬鹿にされてる気がする。
俺は黙ってベッドの横の椅子に腰を掛ける。

「…2年前のこと、覚えてる?」

肩がびくりと動いた。
Aさんのことだとわかっているけれど、思わず顔に熱が集まる。
そんな俺を見透かしてか、幸助さんはふっと嘲笑的に笑う。

「…忘れるわけないだろ」
「はは、だよね。でも、君の望み通り、Aを放しただろ?」
「…それで許されるとでも」
「まさか。…いや、でも償う気はないな。面倒くさいだろう?」

本当いい性格だ。俺は呆れを通り越して尊敬の念すら抱きそうだった。
痛々しい何本もの管を見つめて、幸助さんはぼそりとつぶやいた。



「だから、もう目を覚まさないよう努めるよ」



聞き返そうと顔を上げた瞬間、幸助さんの手がこちらへと伸びてきた。
反射的に身体が硬直するが、その手が頬を撫でた瞬間、ふっと緊張が解ける。

「え…?」
「もちろん、君の目の前にも、もう二度と現れない。安心して?」
「…それ…って、どういう」

「君が、最後の話し相手だ」

心臓がどくりと音を立てた。
これを素直に受け止めていいものか、わからなくなる。

「君が帰った後、俺はもう一度眠りにつく。今度こそ、もう目覚めたりなんかはしない。」

自嘲気味に淡々と話す幸助さん。
駄目だ、これ以上気を許してはいけない。あんなに痛い目に遭ったじゃないか。
俺ははじかれたように椅子から立ち上がった。


「だから、君は俺のことは、忘れたらいい。
 あのときは、悪かったよ。」


頬がひきつるのが自分でもわかった。
あの光景と、羞恥心と、恐怖が、鮮明に脳内にフラッシュバックされる。

「…ああ、忘れるつもり。あんなの、覚えてる必要ないからな」

最後の強がりを、吐き捨てるようにつぶやいて、俺は病室のドアを勢いよく開けた。
ぎゅうっと心臓が締め付けられる感覚に、たまらず涙があふれだす。


『忘れたらいい』なんて、卑怯だ。


2年前から身体に残ったあの人の熱を手放せないまま、ちがう胸の痛みに襲われる自分がいた。
腹の奥がじんじんして、熱くなる。

「…くそっ」

その正体に気づけても、もうきっと、貴方はいない。


幸助side


「…はっ」

思わず笑いがこぼれる。
最後の最後で、彼に新たな傷を作ることができて、本当によかった。

…忘れんなよ、その傷跡。

そんなことを願って、俺は静かに目を閉じて、淡い睡魔に身をゆだねた。

番外編 ・ 夢主編 【変わらない想い】→←きっとこれからも



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作品ジャンル:恋愛
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夕焼涙雫(プロフ) - 栗原 真白さん» 面白かったですよいー(*ゝω・*) (2018年9月23日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - 夕焼涙雫さん» ほ、ほんとですか…?!嬉しいです、ありがとです…!! (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
栗原 真白 - Canpasuーキャンーさん» ありがとうございます(*>ω<*) (2018年9月22日 19時) (レス) id: 0170d3c859 (このIDを非表示/違反報告)
夕焼涙雫(プロフ) - 完結じゃー!時間がある時(=休日)に読み返そう (2018年9月20日 6時) (レス) id: 76522a65f0 (このIDを非表示/違反報告)
Canpasuーキャンー(プロフ) - 完結(?)お疲れさま!そらるさんの次回作、楽しみにしてるよ! (2018年9月19日 20時) (レス) id: 1cab1691ff (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:青瀬真白 | 作成日時:2018年6月26日 6時

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