黎明スバル 耀 ページ33
.
自室としてあてがわれた部屋のベッドの上で、悠々とくつろいでいた仁王は、響いたノックの音に顔を上げた。同室の樺地がドアを開けに向かうのをなんとはなしに見送る。夜も更けたこの時分にわざわざ訪ねてくるとは、なにか急を要する用事だろうか。
「はろー?」
そして、扉の向こうに現れた、笑いながら片手をぴらぴらと振るAの姿を見止めて、胡乱気に顔を顰めたのだった。
「ごめんな、こんな時間に。そこの銀髪、ちょっと貸してほしいんだけど」
樺地越しにぴっと指をさしてくる男に、拒否の言葉を投げやろうと口を開いた仁王は、しかし彼の顔を見て、ついっと目を細め、黙って腰を上げた。
「……ん、すまんの樺地。出かけてくるわ。消灯間に合わんくても気にせんで」
「ウス」
頷いた樺地に感謝を述べてから、Aに続いて部屋を出た。
.
どこに向かっているのやら、ふらふらと歩むAの背中を追いかける。特に会話もないようなものだったが、今更沈黙が苦痛になるような仲ではない。
どんどんと人のいない方へと進んでいくうち、外へとつながる玄関口までやってきていた。
「――……で、何でお前は機嫌悪いんじゃ」
さあっ、と風が吹き込んで、立ち止まったAの髪を揺らす。
「……バレてた?」
「あの程度で俺を騙せると思ったら大間違いぜよ」
振り返って苦笑するA。しかしその顔は、いつもへらへらと口角を吊り上げている表情は、今は陰ってしまっている。元々器用であるゆえに、恐らく他の者には気づかれていないであろうそれ。被った皮の下に隠された不機嫌さ。
それが単なる苛立ちの感情であったなら、仁王だって放っておいた。なにか気に入らないことでもあったのだろうと。しかし今の彼のそれは――どちらかといえば。
奥底に潜まれているのは――怯えであった。
「…………」
つい、と再び視線をさまよわせたAを、急かすことはせず、仁王はその横顔を黙って眺めることにする。端正な顔を、月明かりが照らし上げる。造形の美しい男だと改めて実感する。
「……さっき、一軍のトップに会ってさァ」
「え」
しばらく経って、ぽつ、とAは言葉を落とし始める。思いもよらない報告に、ぱちりと仁王は瞬いた。
「……どこで」
「コートのところ。なんかいざこざしてたから、割って入っちまった」
自嘲するようにふっと笑んで、彼は壁に背を預けた。そのまま、ずるずるとしゃがみ込んでいく。
.
171人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時