黎明スバル 煌 ページ34
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「……A?」
「――……怖かった」
折りたたんだ膝に額を乗せ顔を伏せたAの傍に、仁王も座り込む。らしくない男のこめかみを、汗が伝っているのを見た。
「別にあの男を怖がってるわけじゃねェ……そんなことあるもんか。ただ、俺さ、そいつに――平等院に会って、向かい合って」
顔を上げたAの細められた瞳が仁王を捉えた。
「ブッ倒してやるって、排除してやるって、そう思ったんだ」
越前や徳川――否、明確にトリガーとなったのは越前リョーマの方であろう。崖の上を共にした彼は、負けず嫌いらしい彼は、ことのほかAに懐いているらしい彼は――かの全国大会で立海を破った存在でありながら、Aの愛する、大切な仲間だ。その越前に危害を加えんとする平等院を目の当たりにして、Aは。
Aが抱いたのは――それまで身の内に感じたことのないような、強烈な敵愾心。
頭の中を一気に焼き尽くすような。自分の意思とは別の“なにか”が、身体の中を巣食っていく感覚。
「怖ェなあ……」
「A」
仁王は手を伸ばして、両手で彼の頬を包む。つるんと小さな顔だ。少し目を伏せたAが、するりとその手に擦り寄るのは、もはや反射条件のようなもの。指の腹で滲む汗を拭いながら、その唇を慈しむように食んでやる。
「A」
何度も彼の名を呼びながら、目の奥を見つめる。他人が見れば不機嫌そうな、ぴりついた色を湛えた目。その奥にある、寂寥と戸惑いと、自己嫌悪と怖気の色。
ずるいなあ、と仁王は内心独り言つ。いつも威風堂々、王者の顔で悠々としているこの男が内に飼う、幼く柔らかな部分。それを見つめて愛することのできる優越感。
――恐らく今、AAの中の何かが、目覚めようとしているのだ。
Aの奥底で、長い間眠っていたはずのそれ。それが、この合宿を通して、さまざまな刺激の中で――目を覚まそうとしている。
誰かが言う。
――AA。この合宿、お前はきっと苦しむだろう。これまでの比ではない。望まぬ進化はお前にとって苦痛でしかない。
誰かが言う。
――テメェは戻ってくるべきじゃなかった。
Aは、どうなってしまうのだろう。自らの変化に怯えるこの少年が、彼の中で眠るそれが完全に覚醒したとき、彼は。
「A」
仁王は彼を呼ぶ。彼がここにいると確かめるように。寂しがりなこの男が、帰る場所を見失わないように。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時