検索窓
今日:1 hit、昨日:7 hit、合計:44,166 hit

黎明スバル 煌 ページ34

.


「……A?」
「――……怖かった」

 折りたたんだ膝に額を乗せ顔を伏せたAの傍に、仁王も座り込む。らしくない男のこめかみを、汗が伝っているのを見た。

「別にあの男を怖がってるわけじゃねェ……そんなことあるもんか。ただ、俺さ、そいつに――平等院に会って、向かい合って」

 顔を上げたAの細められた瞳が仁王を捉えた。

「ブッ倒してやるって、排除してやるって、そう思ったんだ」

 越前や徳川――否、明確にトリガーとなったのは越前リョーマの方であろう。崖の上を共にした彼は、負けず嫌いらしい彼は、ことのほかAに懐いているらしい彼は――かの全国大会で立海を破った存在でありながら、Aの愛する、大切な仲間だ。その越前に危害を加えんとする平等院を目の当たりにして、Aは。
 Aが抱いたのは――それまで身の内に感じたことのないような、強烈な敵愾心。
 頭の中を一気に焼き尽くすような。自分の意思とは別の“なにか”が、身体の中を巣食っていく感覚。

「怖ェなあ……」
「A」

 仁王は手を伸ばして、両手で彼の頬を包む。つるんと小さな顔だ。少し目を伏せたAが、するりとその手に擦り寄るのは、もはや反射条件のようなもの。指の腹で滲む汗を拭いながら、その唇を慈しむように食んでやる。

「A」

 何度も彼の名を呼びながら、目の奥を見つめる。他人が見れば不機嫌そうな、ぴりついた色を湛えた目。その奥にある、寂寥と戸惑いと、自己嫌悪と怖気の色。
 ずるいなあ、と仁王は内心独り言つ。いつも威風堂々、王者の顔で悠々としているこの男が内に飼う、幼く柔らかな部分。それを見つめて愛することのできる優越感。

 ――恐らく今、AAの中の何かが、目覚めようとしているのだ。
 Aの奥底で、長い間眠っていたはずのそれ。それが、この合宿を通して、さまざまな刺激の中で――目を覚まそうとしている。
 誰かが言う。
――AA。この合宿、お前はきっと苦しむだろう。これまでの比ではない。望まぬ進化はお前にとって苦痛でしかない。
 誰かが言う。
――テメェは戻ってくるべきじゃなかった。
 Aは、どうなってしまうのだろう。自らの変化に怯えるこの少年が、彼の中で眠るそれが完全に覚醒したとき、彼は。
「A」
 仁王は彼を呼ぶ。彼がここにいると確かめるように。寂しがりなこの男が、帰る場所を見失わないように。


.

風刃を研ぐ→←黎明スバル 耀



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (81 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
171人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。