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 どうして人は争うのだろう。
 柔らかな人肉をクナイで切り裂いた手の感触を見つめて肩を落とした。
 ギュッと握って開く。ギュッと握ってまた開く。その繰り返し。その掌には血がべっとりとこびりついていて、嗚呼もう戻れないのだと痛感した。
 河川で荒れるほど洗い流したというのに、取れない。苦痛に呻く声色が耳から離れない。

 ──あの人、指輪の首飾りをしてたな。肉を切り裂いた際に落ちたそれはしあわせのかたちと匂いが詰め込まれていた。

 だから、切り裂いた人達の顔は見ないようにした。
 後悔しそうだった。死にたくなかった。自分を守るために、里を守るために殺した。それだけのことなのに。

 戦争、欲望、渇望。争うことに意味はあるのだろうか。
 どんよりとしてきた灰青の世界に、明日は雨かなあと呑気にも切り裂いた人肉を埋めるのだった。

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作者名:透桜子 | 作成日時:2022年8月3日 21時

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