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「あと三分ぐらいで花火上がるよ」
「ホント!?楽しみだなぁ〜」
そう言って、目を伏せた彼女の横顔は何処か寂しげであった。
やはり、色がないモノクロな世界であることが悲しいのではないか。俺はどうしてやる事も出来ずにただ歯痒い思いをするだけなのだ。
「A、あのさ」
「なに〜?」
「何で急に花火大会になんか行こうって言い出したの?」
「そらると花火が見たかったの。色が見える見えない関係無くね」
だからこうして来れて嬉しい、と笑う彼女の憂いを帯びた瞳に酷く胸が締め付けられる。暗闇の中、キラキラと光るその瞳が唯一の光だ。
「あっ、そらる!あと二分だよ!」
早く、彼女のために。言わなければならない事がある。早く、早く、早く。
______ドン!
予定より少し早い花火が一発、二発、また三発、とどんどん打ち上がって行く。
(A___俺は、)
「A、結婚しよう」
。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。
生まれた時から私の世界には色がない。大好きな彼___そらると結ばれてから世界に色が付くのでは無いかと思った。けれどそれは単なる思い込みに過ぎなかったのだ。私はそれ以来もう一生色を見ることがないと諦めている。
ドン!ドン!と次々に花火が打ち上がる。だが、それはただ光が空にあるだけ。色なんて関係無く、どれもまばらに白色である。
「A、結婚しよう」
「………………え?」
耳と、目を疑った。
耳と、
「そ、そら、る……!ま、待って、待って……!何、これ!」
「え、A?」
「何これ、何これ何これ何これ!」
空には見たことも無い花火が打ち上がり、彼の浴衣は見た事のない浴衣で。全てが新しく、見た事のない景色ばかりであるのだ。
「そらる、ねぇ、色が……!これ、これが色なの!?ねぇ、そらる!」
ボロボロと涙を零しながらそらるの浴衣の胸元を掴み、混乱する頭で必死に考えを絞る。
全部、見た事がない。
「色、が、見えた…ってこと……?」
「見える、そらる、見えるよ……!ねぇ!そらるの目ってこんなに、綺麗なんだね…!あぁ…っ、うあぁっ!」
モノクロな世界が色付き、光明陸離から光彩陸離へと。
そして、数分後。
私達の左手の薬指は小さな輝きを持っていた。
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