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彼女は色が分からない事に、花火を鮮明なものとして見れないことに苦しんでいないだろうか。と危惧していた。だがそれは危惧しているだけではなく、実際に彼女は苦しみの中に居た。
「花火って、見えていたらやっぱり綺麗なのかな」
と悲しげに呟く彼女に酷く胸が締め付けられた。
「そらるー!浴衣着れない!手伝って!」
「は?え、いやそんな格好で出て来られても…お前バカじゃないの?」
浴衣が着れないと言いながら、なんの恥じらいもなく下着姿で部屋から出てくるので何事かと思った。勿論、長い付き合いであるのでやる事はやっているし、彼女の下着姿なども見てきた。だが、こうもいきなり警戒心のないまま出てこられると困る。
(…いやいやいや、まだいきなり下着姿で出てこられて驚かない程俺も冷静じゃないし)
「ほら!このスマホ書いてるからコレ見て着付けて!」
「はいはい…」
俺はAの召使いか何かかよ、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
彼女も彼女なりに悲しい事を噛み殺しているのだから、俺は彼女を笑顔にさせることを考えなければいけないのだ。考えるだけではなく、笑顔にさせなければ。
「ねぇ、そらるこの浴衣青色だよ」
「え、何で色分かるの」
「まふと選んだの。そらるの色の浴衣がいいって言ったらこれが似合うそらるさん喜ぶよって教えてくれたの」
「え、知らなかったし…Aに青は似合ってるよ」
青色に薄い紫の花が咲き、ピンク色の帯が良く生えていた。これら全てをこの日のために用意したのかと考えると鼻高々である。
「本当は着終わってからそらるに見せたかったんだけど、このままじゃ花火大会に間に合わないかなって」
「まぁ、その様子だと間に合わなかっただろうな。帯、キツくない?」
コクリと頷く彼女の瞳には、この浴衣の美しさが入っていないのだ。だが、それを彼女は露骨に表すことはないし、最もそれを誰かに話すこともない。
皆と同じような扱いになるようにと言うことで誰にも何も言わないのである。
「よし、出来た」
「…わぁ!浴衣着てる!そらるもカッコいい!えっ、二人並んだ写真もちゃんと撮ろうよ!」
パシャリパシャリと早速写真を撮りながら、はしゃぐ彼女の姿が愛おしくて仕方が無い。何故こうも可愛らしいのか。
二人で笑顔で顔を見合わせながら、同じ歩幅で花火大会へと歩みを進めた。
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