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Aの声に導かれるまま階段を駆け上がって、開け放たれた襖の向こう。
見るからに気持ち悪い小太りのおっさんが、嫌だと泣き叫ぶAの上で馬乗りになっていた。
Aは決して戦えない女じゃない。
今ではオレの方が強くなったけど、それまではどれだけ喧嘩を挑んでも勝てなかった。
だから今だって、相手が普通のおっさんなら簡単に蹴散らしていたはずだ。
なのにそれが出来ないのは、あのおっさんが、Aに中で抵抗してはいけないとストッパーをかけている相手だから。
___『でも逃げれなかった。逃げて殺されたらどうしようって、あの時はまだ弱かったから』
直感で、こいつがAを傷つけた父親なんだと分かった。
こいつのせいで、Aは傷が癒せないほどに傷ついた。
こいつのせいで、今まさにAが傷ついている。
あぁそうだ。
こいつは、オレの"敵"だ。
______それからのことは、あまりハッキリとは覚えていない。
気づけば人間だった筈のそいつはオレの足元で血まみれになっていて、男の顔は原型を留めないほどに歪んでいた。
オレじゃない、オレじゃないといくら唱えても、ジンジンと痛む右手の拳が、そいつを殺ったのはオレだと告げてきて。
そして肝心の自分自身は、震えるAの体に抱きしめられていた。
「一虎、もう良い、もう良いから。もう、十分だから」
いつの間にかオレよりも小さくなってしまった体が、動きを封じ込める様にして強く強く抱きしめてくる。
それでも、簡単に振り切れてしまえるほどか弱い力だった。
同時に背中側に回った腕が「大丈夫だから」とでも言うようにオレの背中を撫でていた。
オレ達の足元では、死体になったおっさんが転がっている。
そしてオレの目線は、Aの肩越しに見えるその死体をいつまでも見つめている。
オレが、こいつを殺したんだ。
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「……ハハッ、笑えねぇ」
少年院の一室で乾いた笑いが溢れる。
A、A、A。
オレは絶対に、オマエを許さない。
だから。
「い"ッ……でぇ」
ブチブチと嫌な音を立てながら耳朶を貫く安全ピン。
血の垂れるそこにAから貰ったピアスを着けて、鏡に映る自分を見つめ返す。
血で濡れた鈴が、リン、と鈍い音を出した。
___だから絶対ェ、忘れんじゃねぇぞ。
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黒崎結利加(仮名) - うぅ、、、な、涙がぁ、、、何回読み返したのだろうか。この作品に出会えてよかったです‼主様、これからも頑張ってください!応援してます‼(え、イラストうますぎません?教えてください‼師ショー((殴) (2023年4月6日 3時) (レス) @page34 id: 5c1ce3d064 (このIDを非表示/違反報告)
Naifu - 凄い作品ですね!歳離れてるのってなんか変な感じで終わるのかな…なんて失礼なこと思ってたんですけど、まとまりとかお互いの関係的なものがよくて夢中になって読みました!本当になんか心があったまりました。これからも頑張って!無塩バターさんのこと応援してます! (2021年12月6日 20時) (レス) @page33 id: 1c04a135ec (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - 姫乃さん» 小説の方もイラストの方も褒めてくださりありがとうございます!感じたことを言葉に表すのって難しいので、なんかいいなと思って頂けただけでも嬉しいです!確かに、作者自身もよく逃げ出したいと思うことがあるので、自然と案が浮かんだのかもしれないです(笑) (2021年11月21日 17時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
姫乃(プロフ) - とっても素敵な小説でした!!その上絵もお上手で!!なんて言うか上手く言えないけどなんかいいなって思える素敵な作品でした!!主様が平日更新が忙しい。ということを言ってらっしゃってそんな主様だから書けた作品なのかななんて思ったり。素敵な作品でした!! (2021年11月19日 1時) (レス) @page35 id: 1356d63b83 (このIDを非表示/違反報告)
無塩バター(プロフ) - ミルクレープさん» コメントありがとうございます!きっと彼らの絆はこの先一生切れることなく繋がっていくんだろうと思います。こういう少し歪だけど何よりも綺麗な絆が大好きなので、そう言っていただけて嬉しいです!文才はすずめの涙程しかないのでご勘弁を(笑) (2021年10月31日 20時) (レス) id: aad7259adc (このIDを非表示/違反報告)
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