謎めいた言葉 ページ35
「ごめんなさい。これは言うべきではなかったわ……」
教官は一瞬にして冷静になり、椅子に座り直した。
「……あの声の主を、知っているんですね?」
教官は俺の質問に、迷いながらうなずいた。
「よく知っているわ。そんなことを言うのは、言えるのは、あの子しかいない」
ずいぶんと強い確信を持っているようだ。
「俺の知っている人ですか?」
教官は少し黙った。心臓に悪い沈黙が数秒続いた後、教官が口を開いてこう言った。
「ある意味では知っていて、ある意味では全く知らない子よ」
そんな謎めいた言葉をぶつけられ、その真意を訊こうとしたが、それより先に教官が口を開いた。
「もし、君の言ったことが本当なら、君の見た予知夢は私の見たのとは根本的なところで違っている可能性があるわ。どちらも同じ予知夢だけど、どちらも違って、どちらも正しい。きっとそうなのよ」
さらに謎めいたことを言われて、訳がわからなくなった。そんな俺を見て、教官は控えめに微笑んだ。
「混乱させてしまってごめんね。でも、いつかわかる日が来ると思うわ」
そう言って教官は席を立ち、椅子を元の場所に戻した。これから夕飯の仕込みの続きをするのだろう。
教官は台所に戻るその途中で一旦足を止め、俺の目をじっと見て言った。
「今回、Aがどんな最期を迎えるのか、実際のところはわからないわ。私たちが見たすべての予知夢を覆す現実があるかもしれない。
けれど、どんなルートを辿ろうとも、Aの傍には君がいる。君が深く関わっている。だから、どうかAを最期まで見届けてあげて」
逃げるように台所へ戻った教官。その後ろ姿が寂しいように感じた。
俺は教官に向けて、自分に向けて、そしてAに向けて、答えた。
「そんなの、当たり前じゃないですか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
教官と話してわかったことがある。教官は俺の知らない世界を知っている。そして知っていることを隠している。
何より気になったのは、教官が『今回』という言葉を口にしたことだ。『今回』というのは『前回』または『次回』の存在を知っていなければ出てこない言葉だ。何故そんな言葉を使ったのだろう。
そしてあの謎めいた言葉。あれは、すべての可能性を肯定することを意味していた。しかも推量ではなく、断定していた。
すべての予知夢で見たことが起こる。それはいつ、どこで起こるんだ……?
まさかな、と思ったが、その可能性を考えずにはいられなかった。
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頂志桜(サム)(プロフ) - はじゅさん» お久しぶりです!コメントありがとうございます!逆ギレされるほど気に入ってもらえて、うれしいです(謎) でも、期末の勉強を疎かにしてはいけませんよ〜(と言っている私もテスト期間なので人のこと言えませんが……笑) お互い頑張りましょう! (2018年6月26日 22時) (レス) id: 1b8d8957f6 (このIDを非表示/違反報告)
はじゅ - おかげで期末全然勉強できません!!(こんなに面白い作品をありがとうございます神様) (2018年6月26日 20時) (レス) id: 26f7e5e552 (このIDを非表示/違反報告)
はじゅ - お久しぶりです!もういつまで経ってもなんでこんなに面白いんですか!!(謎の逆ギレ (2018年6月26日 20時) (レス) id: 26f7e5e552 (このIDを非表示/違反報告)
頂志桜(サム)(プロフ) - 深雪さん» コメントありがとうございます!そして、お誕生日おめでとうございます!!実は、このシリーズも今日が誕生日なんです!感慨深いですね〜 (2018年6月12日 21時) (レス) id: f46217bc92 (このIDを非表示/違反報告)
深雪 - きょうはわたしのたんじょうび (2018年6月12日 12時) (レス) id: eec2ec89e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:頂志桜 | 作成日時:2018年6月9日 15時