4.才能 ページ7
見れば見るほど私にナイフが奥深く刺さっていくようで、苦しい。彼の瞳に、演技ひとつに、こんなにも動揺する自分が嫌だった。舞台で輝く彼を、直視出来ない。
物語は、私を置いて進んでいく。灰被りは心優しき少女。それを見かねた魔法使いがあっという間に美しい少女へと変身させた。灰被りは美しいドレスを着飾り、王子と夢のような夜を過ごす。
王子役の例の後輩の演技を見てまた心を抉られた。素人に毛が生えた程度の演技、なのに。それ以上に生き生きとした顔で。
なに、あれ。
『つまらない』という言葉が再び私を侵食していく。もう、帰りたかった。
このシーン、私はどうやって披露したっけ。このセリフ、私はどんな風に言ったっけ。
惜しみない拍手。声援。カーテンが閉まる音。
この瞬間、客席からみた私は、いつもどんな顔をしてるんだろう。
･
｢すみません、大丈夫ですか？｣
｢っあ、｣
栗色のの青年に声を掛けられてようやく我に返る。気がつけば、もう公演は夢のあとだ。大丈夫です、と返答したとき、汗がドッと噴き出しているのにようやく気がついた。
｢顔色も悪いですし…良ければこれ、使って下さい｣
アイドル科の、1年生だろうか。その青年はこちらにハンカチを差し出したが、ゆっくりとその手をどける。
｢…すみません、本当に大丈夫ですから。汚れちゃいますし、悪いですよ」
｢ああいえ、気にしないでください、僕も考え無しに…｣
焦ったように頭を下げる青年に大丈夫だと促す。目の前の舞台が視界に入る度にチカチカする。優しさからの行動だったのだろうが、もう離して欲しかった。
それじゃあ、と背を向けようとすると青年がキラキラした目で私の手を掴む。嫌な、予感がする。
｢あの、公演見ましたか？あの、興奮しちゃって、共有したくて！王子様役の北斗先輩！どうでしたか！？｣
｢北斗…あぁ、さっきの舞台の、王子の。｣
｢はい！かっこいいですよね、あんなの男の俺でも惚れちゃいますよ…！｣
ホウッ、と息をついて興奮した様子で話す男の子。きっとこの子はその｢北斗先輩｣の後輩なんだろう。ふつり、と煮えたぎる気持ちが沸いた。この彼は、純粋なのか。
｢あんなの、演技じゃないわ｣
あんなの、認めない。そう呟いてハッと我に返った。…この子に言ったって、何にもならないのに。幸い、彼には聞こえていないようだった。
｢…どうかしました？｣
｢…独り言よ。気にしないで｣
今度こそ青年にそれじゃあ、と告げて出口に向かう。彼から姿が見えなくなった所で、私はそこから逃げるように走り出した。
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そると(プロフ) - すごく面白かったです。更新されることがあったら楽しみに読ませて頂きます！待ってます (2020年4月28日 19時) (
レス) id: 663d9c3cae (このIDを非表示/違反報告)
チョコトースト(プロフ) - ちよりさん» 作品自体楽しく読ませて頂いていたのでとても嬉しいです…返信と対応ありがとうございます!これからもちより先生の日々樹渉を楽しみに待ってます!長々と失礼しました… (2020年1月27日 23時) (レス) id: 9ac9e5b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
ちより(プロフ) - チョコトーストさん» 念の為日々樹渉の言葉を全て違う言い回しにしてきました汗 不快にさせてしまったようなら申し訳ないです...！もしまだ何かございましたら詳しくは私のTwitterのDMに書かれても大丈夫です汗 (2020年1月25日 23時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
ちより(プロフ) - 64さん» ありがとうございます〜！頑張ります！ (2020年1月25日 23時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
チョコトースト(プロフ) - 面白かったです。ですがこれと似た台詞が使われている日々樹渉2次創作漫画を読んだことがあります。小説自体は凄く好みだっただけにもやもやしております。よろしければその漫画の存在をご承知かどうかだけでもお教え下さい。 (2020年1月22日 17時) (レス) id: 9ac9e5b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちより | 作成日時：2019年11月5日 20時
