8.舞踏会 ページ13
｢……さっき、貴方｢灰被り｣のせいにはするなって言ったばかりじゃない｣
｢体調も優れないのを私のせいにしてほしくないので｣
｢……そう｣
残念だけど、私はもう昔から本調子ではないのだ。そんな皮肉めいた意味を込めて、差し出された手を取った。
喜んで。
灰被りは舞踏会で、差し出された手にそう答えたのだろうか。
Shall we dance！
そう彼が高らかに叫べば、殺風景な屋上がスポットライトで照らされたみたいに変わる。私には眩しすぎて、目を閉じて合わせて、踊る。
彼の息をのむ音が聞こえる。驚いただろうか。君よりはうまくはないけれど、合わせるのなんて実に簡単だ。制服のスカートをドレスに見立てるのは難しいけど、君と踊るなら、こんなドレスも悪くないのかもしれない。
そこから数分間、音楽も観客もない中でひたすらに踊って、踊って、乱れた。結局、君と目を合わせることは1度もなかったけれど。
｢…この様子じゃ、明日は学校休むかもしれないわ｣
｢おや、貴方も大したことないんですね｣
｢元々微熱がある事、知らないとは言わせないけど。｣
悪いと思ってますよ。と、どこからか水を取り出してこちらに渡してくれる。
何が入っているか分からないから飲みたくはなかったが、水分は欲しかったので大人しく飲んだ。
喉を通って冷たい水が流れていく。首元が少し冷えた。
｢隣、失礼します｣と言った彼は返答も聞かずに隣に座る。どうせ私が断らないと分かっていたんだろう。その通りだから何も言えなかった。
少しの沈黙。
隣で座る彼を盗み見た。
鼻が高く、まつ毛の一本一本がしなかやに伸びていて、こんな人間いるのか。と他人事のように思った。
｢……私ね、｢灰被り｣の舞台袖で、客席を見ていたんです。｣
｢いきなり何……あの『日々樹渉』が？珍しい｣
｢私も別に見るつもりありませんでしたよ。……自分でもよく分からなかったけど、ふと覗いたんです。｣
彼は足元を見てぽつぽつと話し始めた。
｢そしたらね、女の子の笑い声が、聞こえたんですよ｣
｢……笑い声？｣
｢ええ。しかも比較大きめの声で｣
手で四角を作って、空に持ち上げる。キャンバスを決めるように、星空を指の間から彼は眺めていた。
｢女の子達が自撮りをしていたんです。劇場での写真や私語は勿論タブーでしょう？｣
｢ですがその日は無性に、なんだか懐かしくて、泣けてきたんです。｣
その手を静かに私向けて狙いを定めた後、ゆっくり手を下ろして微笑んだ。
ねぇ、やっと目を合わせてくれたね。
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そると(プロフ) - すごく面白かったです。更新されることがあったら楽しみに読ませて頂きます！待ってます (2020年4月28日 19時) (
レス) id: 663d9c3cae (このIDを非表示/違反報告)
チョコトースト(プロフ) - ちよりさん» 作品自体楽しく読ませて頂いていたのでとても嬉しいです…返信と対応ありがとうございます!これからもちより先生の日々樹渉を楽しみに待ってます!長々と失礼しました… (2020年1月27日 23時) (レス) id: 9ac9e5b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
ちより(プロフ) - チョコトーストさん» 念の為日々樹渉の言葉を全て違う言い回しにしてきました汗 不快にさせてしまったようなら申し訳ないです...！もしまだ何かございましたら詳しくは私のTwitterのDMに書かれても大丈夫です汗 (2020年1月25日 23時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
ちより(プロフ) - 64さん» ありがとうございます〜！頑張ります！ (2020年1月25日 23時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
チョコトースト(プロフ) - 面白かったです。ですがこれと似た台詞が使われている日々樹渉2次創作漫画を読んだことがあります。小説自体は凄く好みだっただけにもやもやしております。よろしければその漫画の存在をご承知かどうかだけでもお教え下さい。 (2020年1月22日 17時) (レス) id: 9ac9e5b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちより | 作成日時：2019年11月5日 20時
