参拾陸*打ち子でやり直し ページ37
それからというもの―――
「いやあ〜これは失礼しました!まさか、いち兄が待っていた人が貴女だとは思わなくて!」
私の腹を貫いた刀、"鯰尾藤四郎"は手入れをされながら後頭部を掻いていた。
申し訳なさそうには見えない笑顔で。
「そーですか。何となく腹立つ顔してんな」
「あれ、なんか俺に対して冷たくないですか?」
鯰尾は袖を下ろしながら口唇を尖らせた。
拗ねてんのか。その顔は可愛い。
「笑顔で自分に付いた血を本人に見せびらかす姿は怖かった」
鯰尾の後ろでボソリを呟いた"骨喰藤四郎"は手入れ済みだ。
ちなみに、ついてきた"五虎退"くんと"前田藤四郎"くんも手入れ済み。
つまり、この手入れ部屋にいる刀の手入れは終わったのだ。
「そういや大将。打ち子は使わないんだな」
「打ち子?何それ」
すると、薬研は「知らないのか?」と心底呆れた表情をした。
知らん。聞いたことないぞ。
「打ち子というのは、これのことです」
と、私に【打ち子】を差し出してきたのは一期さん。
何だこのイケメン。ロイヤルイケメン辛い。
感謝を述べて手に取ると、なるほど。
見たことはある。
「これ、刀にポンポンするやつだね」
「本来ならそれで手入れをするんだが、大将は打ち子を取り出さなかったもんでな」
「あ〜…ん?あれ、じゃあ完全に手入れは出来てないってこと?」
小首をかしげて聞くと、彼らはこくりと頷いた。
なん……だと………?
私はこの場にいる刀を高速でポンポンしたあと、し損ねた彼らもポンポンしに走った。
******
審神者が出て行った手入れ部屋では、呆気にとられた彼らが取り残された。
「……いち兄、見た?あの顔」
嵐が過ぎ去ったような空気に、乱の声が第一に広がる。
続くように厚が口を開いた。
「すげえ真っ青な顔してたな。別に焦らなくてもいいだろ」
「大将はああいう奴なんだろ。なあ?」
薬研が一期に視線を送り、返事を促した。
一期はそっと頷いて、審神者が消えていった扉を見つめた。
「あの方なら、大丈夫だろう」
その瞳は、愛おしげに揺れていた。
「頼りにしていますぞ。……主殿」
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作者名:ヒタリ | 作成日時:2018年8月28日 23時