四ノ巻 小弓 ページ4
「十六夜、小弓でもしないか?」
「分かりました、東宮様。」
東宮様が弘徽殿にお住まいになって数日。分かったことがいくつかある。まず、東宮様は大変多忙と
いうこと。帝がお選びになったという生粋の学者を呼んでの勉学は最年長で知識豊富な女房が首を傾
げるほど難解。弓の練習は的の中心に十本連続で当てるまで行われ、笛は聞いているこちらが心配に
なるほど長く続けられていた。しかしもっと驚くべきことは、東宮様がこれをこなしているという事
実である。噂には聞いていたが相当な器量だ。
「それ。」
室内での遊び用に小さく作られた弓で東宮様が矢を射られる。遊びまでも完璧と言うのだろうか、放
たれた矢は見事的のど真ん中に命中した。
「素晴らしいお手前。やはり東宮様には敵いませぬ。」
「十六夜も中々の腕だ。大分楽しめたよ。」
「そうでしょうか。」
東宮様がやって来てから弘徽殿は大分明るくなった。もちろん、まだ中宮様を喪った寂しさは拭えて
いない。でも前より泣く女房は少なくなった。
「十六夜、先日珍しい絵を手に入れたのだが」
東宮様がそうおっしゃりかけたその時、何かが破裂するような音が弘徽殿に響く。すぐ近くで鳴った
音に思わず身を小さくすると足元に丸い球が転がってきた。蹴鞠に使われる鞠だ。
「一体どなたが……と、東宮様⁉」
鞠を拾い上げて頭上を見上げる。するとそこでは東宮様が私を守るように覆いかぶさっていた。私の
声に驚かれたのかふとこっちへ視線を落とす。
「すまない。何か危ないものが飛んできたのかと思って反射的に動いてしまった。」
「いえ。それより東宮様、お怪我は……」
「大丈夫だ。それよりその鞠、持ち主に心当たりがある。もうすぐこちらに来るはずだ。」
そうおっしゃって東宮様は御簾越しに見える外に目を向けた。
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夜 - とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。更新頑張ってください! (2020年10月5日 14時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ソナタ | 作成日時:2020年9月25日 21時