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二ノ巻 東宮様 ページ2

「東宮様が……弘徽殿にお住まいになる?」

「そうらしい。なんせお姿はまさに中宮様の生き写し。帝も本気だそうだ。」

「しかも学問や弓馬にも優れていらっしゃるそうだ。」

宮中を行き来する人達の話は中宮様の崩御と同じくらい、いやそれ以上に東宮様の話題で持ち切りと

なっていた。色々な話を聞いたがまとめると東宮様は中宮様と同じ赤い髪をお持ちになり、美しいお

姿をしていて勉学、さらには和歌などにも優れていらっしゃる。そして中宮様が暮らしていた弘徽殿

にこの度お住まいになる。

「十六夜? どうしたの?」

「いえ、何でもありません。」

弘徽殿の主が中宮様から東宮様になったからと言って私達の暮らしが変わることはなかった。ただ単

に、仕える相手が中宮様から東宮様に変わっただけ。それを聞いた時は仰天したが、一度に数十人の

女房を暇にするくらいなら東宮様に、というなら頷ける。これまで中宮様がお使いになっていた調度

品を取り換え、東宮様がいらっしゃるのを待つ。途中で中宮様のことを思い出してむせび泣く女房が

私を含め何人もいたが、作業は滞ることなく終了した。

「流石に疲れたわ……」

まるで中宮様を喪った悲しさを忘れるためのように作業した今日。それでも終わりはやって来る。今

頃帝との謁見を終えて東宮様がこちらへ向かわれているはず。中宮様がかつて使われていた文机を持

ち上げて弘徽殿の外へ出る。これも片付けなくては。弘徽殿の周りを取り囲む簀子へと御簾をくぐっ

て踏み出す。その時、鮮明な赤が私の視界に入り込んだ。二年間呼び続けたその御名前。忘れるはず

がない御髪。

「中宮様⁉」

反射的に顔を上げた先。中宮様と同じ紅の髪を持つ人が立っていた。でも、中宮様ではない。中宮様

はもう、御隠れになってしまったのだから。

「と、東宮様……」

自分の過ちに気づいた頃には遅かった。あっけにとられたように目を大きく見開いて東宮様が私を見

つめる。朝日と夕陽の両方を閉じ込めたような瞳が私を捉えていた。

「大変申し訳ございません!」

いくら似ているからといって中宮様と東宮様を間違えるなど言語道断。すぐに深く頭を下げる。

「どうかお許しを!」

「……貴女は」

「弘徽殿の女童、十六夜と申します。大変な失礼をいたしました。本当に申し訳ございません。」

沈黙が東宮様との間で続く。もしかすると、とてもお怒りになられたのかもしれない。

「十六夜……満月の次の月か。素敵な名前だ。」

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- とても面白くていつも続きを楽しみにしてます。更新頑張ってください! (2020年10月5日 14時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ソナタ | 作成日時:2020年9月25日 21時

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