65: 神宮寺寂雷の世界 ページ26
哀願であり、悲願。
音もない。
ただ、一枚の葉が落ちただけ。
「俺は、貴方で、終わりたい。」
理解できず頭が真っ白になった。そんな寂雷を導くように雪切が手をとる。
その先は、うっすらと傷跡の残った首だった。
寂雷の手を自らの首に絡ませ、その上に雪切自身の手を重ねた。
力を入れれば、簡単に絞め殺せてしまう程、細すぎる首だった。
それは、あまりに残酷な現実。
その顔が、ただ、何も映していなかったから。
「雪切君…?」
「寂雷さん、お願い。……お願い、します。」
今までの行いを、反芻しても足りない。
「俺を、殺して。」
__何処で、間違えたというんだ。
目を見開いた。言葉が出なくなった。何を間違えたのか。
どうして、こうなった?
私は彼を生かしたかった。
人としての幸せを与えたかった。
しかし__あまりに純粋な眼をしていた。
「…私は、君を__……。」
言葉は、出ない。
一体何を言えばいいというのか。ただ旺旺と響く日々に、心が痛くなる。
今までの日々は彼にとって何だったのか。
なんの意味も持っていなかったのか。
違う。
そんなはずはない。
ボタリ、ボタリと零れ落ちる。
なにもかもが無駄ごとだったなんて。
そんなはずはない。
彼の瞳を見て_あの琥珀の瞳を見て_理解してしまったのだ。
息を呑む。
彼は見つけてしまったのだ。
寂雷と過ごす日常の中に、自らの死を望んでしまったのだ。
「…寂雷さん。」
余程の時間が経っただろうか。
こんな感覚は初めてだった。
何度目かの_いつかの様な_こちらを覘く瞳。
怖かった。
同じ瞳に見えなかった。ただ、死人よりも重い目をしていた。
神宮寺寂雷ともあろう天才医師が、恐怖していた。
「……寂雷さん…?」
それでも、目一杯の感情を込めて、寂雷は__
__彼を抱きしめた。
「__ごめんね。」
雪切は目を見開く。声が泣いていたから。
離れていく体温。扉の音。
流れる長髪を波立たせ、
_寂雷は病室を出て行った。
雪切はもう、それを裏切りだとは思わなかった。
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時