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002 溢れるものは。 ページ2

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小さく微笑む私を見て、突然大人しかった凛月が



私に詰め寄る様に近付いてきた。




そして腕を力強く握られる。



まだ昼なのに何処からその力が出てるのか。




それでもその力は痛いというものではなくて、


握られた部分から少し熱が伝わって来た。





「……なんで……!」




ふと、そこでようやく凛月の声が震えている事に気付く。




声だけじゃなくて、私の腕を掴む手も震えていた。





「Aだってまだ好きなんでしょ……?



セッちゃんだって……!」




そこから先は声にならなかったのか凛月は俯いてしまった。




だけど私は見逃さなかった。



重たい前髪の隙間から覗いた毛怠げな赤い瞳が


潤んで、今にも泣き出しそうな顔をしていた事。





……何で凛月が泣くの



驚きで私の涙は引っ込んでしまった。




震える凛月の手をそっと外し、


代わりに私の手を凛月の頬に当て、視線を合わせる。





「凛月、良いんだよ」




小さな子供に言い聞かせるみたいなそんな声で呟くと



凛月は少しだけ目を丸くした。





「……私はもう瀬名の事好きじゃないんだよ



瀬名だって、私じゃなくて今はあんずちゃんが好きなの」




私よりもずっと大きな相手をあやす様なこの光景は


傍から見たらきっと可笑しな光景だろう。





「それに、これが私達の幸せの形だから」




優しく微笑んで見せると凛月はそっと目を閉じた。




そして、開いた眼差しは何処か遠くを眺めていて、




「……そう、だったね」




と、ただそれだけを呟いた。





冷たい風は凛月の柔らかな黒髪を優しく撫でていった。





私の為に凛月が泣いてくれるから、



私は笑っていられるんだと思う。





そんな優しい凛月にこれ以上心配を掛けたくないから、


負担にはなりたくないから、



私は本当の気持ちをずっと隠し続けるのだと決めた。





「少し寒くなってきたし、戻ろ」




私に背を向けて屋内へと歩き出す凛月を眺めてから



もう1度屋上を振り返る。





澄み切った空の青さが、



どうしても貴方の瞳を思い出させる。





寂しさと、切なさと、苦しみと、


心の底で溢れるそれらにそっと蓋をする。





「……さよなら、泉



貴方の事が今でも大好きだよ」





……全部此処に、置いて行こう。



あの日置き忘れた気持ちも全部。





貴方と私の交わらない未来の為に。





重たい鉄の扉が静かに閉じる音が響いた。





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とまと。(プロフ) - はるなさん» そう言って頂ける方と出会う事が出来、感無量です…!私には勿体無い言葉の数々を有難うございます、最後までお付き合いして頂けると嬉しいです。 (2017年5月9日 22時) (レス) id: 5b7907730c (このIDを非表示/違反報告)
とまと。(プロフ) - 聖泉さん» そんな嬉しい言葉を掛けて頂いたのは初めてです…!最後まで感動して頂けるように頑張ります。 (2017年5月9日 22時) (レス) id: 5b7907730c (このIDを非表示/違反報告)
はるな(プロフ) - この物語、本当に好きです!このお話と出会えて良かった!続き楽しみにしています。頑張ってください!! (2017年5月8日 23時) (レス) id: 651f5172c0 (このIDを非表示/違反報告)
聖泉 - とまと。さん» 感動しました。このお話を読んでいてよかったです(^^) (2017年5月7日 23時) (レス) id: b0c24886c2 (このIDを非表示/違反報告)
とまと。(プロフ) - 聖泉さん» まだまだ完結まで時間の掛かる2人ですがゆっくり温かい目で見てあげてください…!応援有難うございます(*^^*) (2017年4月15日 14時) (レス) id: efe978ed57 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:えはら | 作成日時:2016年12月7日 19時

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