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廃ビルの壁沿いを進み、手を壁に付ける。ひんやりとした感触が伝わった。
足早に進む間宮さんに追いつけるように歩幅を大きくすれば、崩れていた石につまづいてしまう。この廃ビルも随分老朽化してるな。
「……ここらへんでいっか。緒方さん、座る?」
「ううん、立ちっぱなしで大丈夫」
廃ビルの一階、真ん中らへんに来たところで、間宮さんは立ち止まる。
間宮さんは少し足を進めて、私とは反対側の方向にある壁を向いた。俯きながら、黙る。少し背中が震えているように見えるのは気のせいではないだろう。
「……あのね、緒方さん。私、まふくんのマンション知ってるの」
唐突に切り出された言葉。
……え? 私がまふさんの同居人って確証ないはずだよね? 私、学校でまふさんのこと一ミリも話したことないよね? てか会話とびすぎじゃない?
まあそんなことを心の中で言っても、会話の流れが変わらないのは知ってるけど。
「私、家が近くて。偶然見ちゃったんだよね、まふくんがあのマンションに入っていくとこ。……あ、もちろん部屋番号は知らないよ」
「……はあ」
まふさんについても、まふさんの話を切り出した理由も語られない。
とりあえず私が、まふさんの同居人……って確信しているらしい。もしこれが人違いだったら、絶対わけわかんないことになってると思うけど。
「住所がわかっちゃったことについては謝っておく。ごめん」
いや、偶然ならいいんじゃないかな?
なんて思いつつも、無言の相づちを打つ。これはあくまで、真面目な彼女なりの謝罪なのだろう。……え、まさかこれを言うためだけに呼び出されたんじゃないよね?
「―――そして、昨日さ」
間宮さんの喉がひゅっと鳴る。
「緒方さんが、そのマンションに入っていくのを見た。……緒方さんは、“Aちゃん”なんだよね? まふくんに引き取られたっていう」
「……うん、そうだよ」
今更否定しても遅すぎる。頭を巡らせながら肯定した。
逆に、こんなに証拠が揃っているのに否定なんかしても意味がない。間宮さんは聡い。確信の域に入っているものを、今更改変なんてする気はないだろう。
「……そう、だよね」
くしゃっと間宮さんの顔が歪む。
俯いた顔に影が落ちている。暗くてよく見えないけれど、負の感情で埋め尽くされているのはわかった。髪がパサリと顔を隠した。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時