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まふまふside
ゆっくりとAちゃんが息を吐く。
僕らはなにも反応できなかった。こんな重い話に対して、簡単に意見できるほど僕らの神経は図太くない。
沈黙が場を支配する。みゃあ、といろはとぽてとが不安げに鳴くが、その声すらも耳の奥には残らず、空気の中に消えていった。
その嫌な雰囲気を破ったのは、一つのお腹の音。きゅるる、なんて音は位置的にAちゃんが発したものだろう。底抜けに明るい音に空気が緩む。
「……ご飯、食べましょうか。Aちゃん、まだご飯食べてないよね?」
「……あ、俺もまだ食べてないから、ここで食べてもいい?」
「カップヌードルならたくさんあるのでいいですよ。何味にします?」
「まず何味があるの」
カップヌードルがたくさん入ったビニール袋を持ち上げる。カサリ、とビニール袋特有の音がした。
袋を逆さまにして、テーブルの上にカップヌードルを散乱させる。
「あ、僕これにします」
「んー、俺は普通のでいいや」
「Aちゃんはなにがいい?」
「……別に、なんでも」
じゃあ僕と同じのにするね、なんてカップヌードルを三つ持ち上げた。選ばれなかったものは元の袋へ戻す。
それをテーブルに置くと、お湯を沸かすためにキッチンへ向かった。……うん、三人分だからこれくらいかな。
僕もそらるさんも平静を装っているが、本当は彼女が話したことを頭の中で反芻している。そうなれば、当然気づく。……今の話には、大切なことが含まれていない。
彼女が飛び降りという選択肢を選んだ理由。他のことに関しても、大まかな事実を淡々と述べているだけで、A自身の身に起きたことは一切介入していない。
……まあ、そんなことを質問する勇気はないけれど。
「お湯沸いたみたいです。入れますねー」
ゴポゴポとカップにお湯が張られる。目安の線までお湯を入れ終わると、僕も席に着いた。
「……あー、そらるさんにはこの先説明した方がいいですね。僕とAちゃんが会ってから」
カップヌードルが出来上がるまで、後三分。
僕はその間、そらるさんにAちゃんと会ったときから時系列順に話していく。途中でAちゃんが合いの手を入れるのを見ては、僕は、少しずつ自分の頬が緩むのを自覚していた。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時