183話 思いつきがすぎる ページ47
手塚先輩の海外での優勝を祝って、河村寿司でプチ同窓会が行われていた。
手塚先輩世代の青学テニス部レギュラーのみの集まりと聞いていたのだが、どんな流れになったのか、私まで参加する羽目になった。
桃や海堂、英二先輩は会うこともあったし、なんなら河村寿司で食事もしばしばあったが、他の人は本当に数年ぶりで、みんな大人になっているのに、話し始めると中学時代に戻ったようで、あっという間に時間が過ぎた。
大「じゃあ、引越し先探さないとだね」
私の話を引き継いで、大石先輩が言う。
貴「そうなんですけど、なかなか面倒ですね、物件探すのって」
新卒で都内の武道館に就職して2年。時に弓道関連の仕事も企画しつつ、仕事後には弓を引くのが日課になっていた。
しかしこの度、両親の希望で実家が引越しをするにあたり、私は職場近くに一人暮らしをすることになった。
越「なんか意外っすね。九重先輩はなんでもいいって言いそうなのに」
貴「実家引っ越すから、部屋の趣味関連のものも持ってくんだよ。そうすると部屋数が……」
そう言うと、私の部屋を知っている人間が納得の表情を見せた。
桃「確かにワンルームじゃ厳しいなあ」
貴「だろ。一応泣く泣く処分したり売ったりしてんだけど」
仕事の合間にネットで探してはいるものの、都内は家賃も割高で、2年目の給料ではとてもワンルーム以外など手が出せない。駅近だと尚更だ。
私が悩み相談をすると、みんなの一人暮らし談義が始まる。そんな中、唯一無言を貫いている人がいることに気づき、そちらに視線を向けた。
タイミングよく、バチッと視線が噛み合う。
不「じゃあ、僕と住まない?」
不二先輩の唐突な言葉に、その場が静まり返った。調理場に居た河村先輩が、カラカラと何かを落とす音だけが鮮明に響く。
全員の頭の上にハテナが浮かんでいた。先輩もそれを感じとって、もう一度、私に向かって同じセリフを言う。
不「僕と一緒に住まない?」
貴「……いまこの状況で言います?」
頭を整理して絞り出せたのは、唯一そのひとことだった。
桃「いやそこかよ?!」
桃が横でツッコミを入れる。
不「前々からいつかはって思ってたんだけど、ちょうど話が出たし今かなって」
しかし、不二先輩はマイペースに話を進めた。
手「ふ、不二……」
あの手塚先輩すら動揺していた。全員が『この場にいてはいけないのでは』と思っているのは痛いほど伝わってくるのだが、不二先輩は止まらなかった。
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時