141話 いつもと同じ、いつもと違う ページ5
不二先輩が小さく息をつく。
不「僕も、Aと同じだよ。もしかしたら、Aも同じ気持ちかもしれない。でも、違うかもしれない。違ったら、せっかく近づいた距離も、今までの関係も、なくなるかもしれないって、そう思ったら今のままいる方がいいって」
また先輩の腕に力がこもった。
不「でもさ、そしたらAが、……笑うから」
貴「は? 私のせいですか?」
思わず先輩の腕から離れ、先輩の顔を見る。
先輩は一瞬びっくりしていたが、すぐにクスクスと笑って「だって」と続けた。
不「ああいう風に笑われたら、言いたくもなるよ」
貴「いや全然わかんないっすね」
若干切れ気味にそう伝えると、先輩はまだ小さく笑いながら、離れた距離を埋めるように、ゆっくりと私の両手を取った。
その動作に、自分が今までどこで何をしていたか、冴えた頭で明確に思い出してしまい、体が固まる。
私の様子に気づいた不二先輩が、急に目を細めて意地が悪い笑みを漏らす。
体重を後ろに引く私に、不二先輩ががっしりと両手をつかみ引き寄せようとしている。
貴「いや、ちょ、待ってください」
不「今更じゃない?」
貴「気づいたら終わりなんですよ。ここどこだと思ってんですか」
不「学校でしょう? 気付かなければいいんだよ」
貴「鬼か?」
不「ふふっ」
貴「楽しそうで何よりなんですが、これマジで一回、いやほんと、いっかい離してください」
じりじりと詰められる距離に懇願するが、先輩は今日一楽しそうにニコニコしながら、腕の力だけはゴリラ並みに強い。
貴「つかほんと力つよっ! どこにこんな握力あんですか! 詐欺じゃん!」
不「A的にはギャップ萌えっていうんじゃない?」
貴「いやふり幅! ふり幅がでかい! どう森かと思ったら途中から格ゲーになったくらいの幅ありますから!」
不「ふふっ」
貴「楽しそうだなおい!」
不「うん、楽しいよ」
不二先輩は満面の笑みでそう告げて、ぐっと私を引き寄せ、私の肩口に顔を埋めた。
不「好きだよ。ずっと言いたかった」
震える声で、先輩はそう言った。
貴「はい」
さらさらと、先輩の栗色が夜風に揺れるのを頬に感じながら、私は静かに頷いた。
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時