17.熱烈な言葉 ページ17
「ほんっとーに3日間帰省するだけなのよね」
「そうだよ」
「こっちに戻ってきたら、真っ先に顔見せなさいよ」
「もちろん!」
頷いて、キャリーバックを片手に歩き出す。トモちゃんは不審そうな顔をしていたけれど、本当に単なる帰省だから気にしないでほしいと思う。
ーー親に呼び出されたのだ。
歩きながら、ため息が出る。呼び出しなんてこれまで一度もなかったのに、何があったんだろうか。帰省した後のことを考えただけで、憂鬱すぎて歩幅が自然と小さくなる。
多分、ていうより絶対、ろくな理由じゃないはずだ。なんとなくわかる。
学園のゲートを通り過ぎようとしたとき、ふいに後ろから伸びてきた手に腕を掴まれて、立ち止まった。振り返ると、そこには息を切らしたクラスメイトが立っていた。
「え、一ノ瀬くん?」
「はい」
「どうしたの......?」
息を整えてから、一ノ瀬くんが背筋をすっと伸ばして真剣な顔で見つめてくる。わたしの腕を掴んでいる手は燃えるように熱くて、それでいて少しだけ震えているように感じられた。
一ノ瀬くんが息を大きく吐いてから、緊張した面持ちで少し微笑んだ。
「もうすぐオーディションのペア決めの締め切りなのをご存知ですか」
「オーディションの? あっ、うん。一応」
「誰にするかもう決めているんですか」
「まだかな。一ノ瀬くんはもう決めたの?」
「いえ」
そう短く言葉を切って、下を向いた一ノ瀬くん。表情がよく見えないので心配になって、顔を覗き込もうとした途端、突然顔を上げた一ノ瀬くんに名前を呼ばれ、両手を包み込まれた。至近距離で、青がかった薄墨色の綺麗な瞳と目が合う。
「私と組んでください、Aさん」
「えっ」
驚いて固まっているわたしを見て、何故か頬を赤く染めた一ノ瀬くんが優しく微笑む。
「私の歌なら、あなたの曲を最大限に生かせます。あなたの努力と才能を、親の七光りなんて言葉で絶対に片付けさせない」
「一ノ瀬くん......」
「あなたの曲だけじゃない。わたしは、あなたという人間そのものにも惹かれているんです、Aさん。お願いです、わたしとペアになっていただけませんか」
その熱烈な言葉に自然と顔に熱が集まっていくのが自分でもわかる。
「返事はあとででいいので、考えておいてください」
「うん。ありがとう」
「いい返事を期待してます。後悔だけはさせませんから」
ふっと微笑み、一ノ瀬くんは背を向けて学園に戻っていく。わたしはその背中を暫く眺めていた。
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環(プロフ) - ラビットハッチさん» コメントありがとうございます! 本当ですか! とっても嬉しいです〜! こちらこそ、ありがとうございます!! 励みになります! (2016年12月19日 3時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
ラビットハッチ(プロフ) - わー!ずっと待ってた甲斐がありました!すごい環さんの作風が大好きで、更新されるのを今か今かと待ってました!更新ありがとうございます! (2016年12月19日 1時) (レス) id: 7cb82700e8 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 翔くん大好き!!さん» コメントありがとうございます^ ^ 励みになります! 更新頑張りますね!! (2015年7月25日 10時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
翔くん大好き!! - 面白くてこの作品大好きです!!更新頑張ってください!! (2015年7月25日 9時) (レス) id: dca90fa2b6 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 夢さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! 更新頑張ります! (2015年7月14日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年3月10日 0時