20.意識 ページ20
開いた口が塞がらないというのは、まさにこのことだと思う。わたしは、口をあんぐりと開けたまま、今玄関から堂々と入ってきた人物を食い入るように見つめた。
「......黄瀬くん?なにその大きい荷物」
さっき、マジバで別れたはずの黄瀬くんが何で今ここにいるんだろう。それに、なんで私服に着替えてるんだろうか。
次々に浮かんでくる疑問に頭を捻らせていると、視線を感じてこちらを見た黄瀬くんと目が合う。すると、その大きな鞄を誇らしげに前に突き出してニカッと笑った。
「今日、オレここに泊まるんスよ」
「うん?」
「だから、青峰っちとお泊まり会するの!」
ーーーなんだって?お泊まり会?
安定の、女子のような可愛らしい物言いにきゅんとする暇もなく、聞こえてきた言葉に頭がフリーズする。目の前にいる黄瀬くんの表情からして、わたしは今ものすごく間抜けな顔をしていると思う。
「黄瀬くん、ここに泊まるの...?」
そーっスよ、と言いながら、荷物をリビングに運んできた黄瀬くんのもとに駆け寄る。しゃがんで荷物を整理するとき、金色の髪を耳にかけるその仕草に思わず頰にサッと赤みが差した。料理を手伝ってる最中に来たので、手に持ってるお玉からお湯がボタボタと床に落ちていく。
「......Aっち?...って、アツッ!お湯かかってる、かかってるから!!」
「ご、ごごめん」
急いで近くにあったティッシュを手に取り、水が敷いている箇所を丁寧に拭く。よく見れば、結構な量のお湯が黄瀬くんの手にもかかっていた。火傷はしてないみたいだけど、申し訳ない。「ごめんね」と言いながら、手にのっている水滴を拭いていると、ふいに顔を上げた黄瀬くんが小さく口を開いた。
「あのさ、Aっちもご飯作ってるの?」
「うん。手伝うだけだけどね」
「いつも?」
頷いたわたしを見てから、口許をキュッと結んで形のいい眉を顰めた黄瀬くんが「そうなんだ」と目を伏せる。その少し暗い表情に戸惑いつつも、長い睫毛が特徴の鼻筋の通った顔をじっと観察していると、突然視線を上げた黄瀬くんと目がバチっと合った。
どちらとも何も言わずに暫し沈黙したあと、黄瀬くんが何か言いたそうに口を開きかけた瞬間、台所から聞こえてきたわたしを呼ぶ声に二人とも飛び上がる。
「...え、と。ごめん、手伝ってる途中だったから戻るね」
「あ、うん。オレも青峰っちのところ行ってくる」
ぎこちない会話をして、なんともいえない表情を浮かべたまま、その場を後にした。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時