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ここはがけかな、咲禰は率直にそう思った。
強い風に吹かれた瀬川の髪の毛が視界にチラチラと入り込む。瀬川は前に立っている男にジリジリと詰め寄られ、その度に一歩ずつ後退していく。このまま後退すれば確実に崖から転落する。けれども帽子を被った男は瀬川に歩み寄る。交互に何かを話しながら。
「そうだ、冥土の土産に、良いことを教えてあげよう」
男は多分、そう言った。
多分というのは、咲禰は視界を一方的に共有するだけで聴覚や触覚、嗅覚などは共有できない。咲禰は読唇術で相手の言葉を読み取ることで、何を言っているか予測するだけだからだ。
「君が死んでしまっても、寂しがることは全くない」
ジリジリと後退を続ける瀬川。咲禰にも緊張感が伝わってくる。目の前に立つ男は、黒く禍々しいとげのような波動を放っていた。こんなもの、普通の人間が出せるはずがない。彼は何者だ、彼等は何者だ。咲禰は飽くまでも冷静に考える。前に立っている三人を交互に見る。
「だって、もうすぐ天国は人であふれるだろうからね!」
「感謝してほしいな、君のために、街中に爆弾をたくさん仕掛けておいたから!」
景色が反転する。視界には空が広がる。今までいた崖からは爆炎が立ち上っていた。
崖にいた三人の姿はもう見えない。巻き込まれたか、逃げたか。瀬川を拐かした手腕から見て巻き込まれたということはないだろう。
ならば逃げたのだろうか。だが、どうやって。咲禰は思考を巡らせる。どうやって、こんな無理な状況からどうやって逃げ出した。答えはひとつしかない。
ーー異能力。
彼等が異能者だとしたら。逃げるのも容易い。
とりあえず、もどってかんらたちにほうこくしないと。咲禰は地面に叩き落とされる前に水で形成された美しい錦鯉が見えたことを確認してから瀬川の視界を離れた。
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神羅(プロフ) - 蛍火さん» すみません、もう締め切っておりまして……。それに、今は殆ど機能しておりませんので……。ボチボチ更新しなければと思うのですが、私も一応受験生でして……。すみません。 (2018年7月9日 23時) (レス) id: 57d9444f68 (このIDを非表示/違反報告)
蛍火 - お話読ませていただきました。もしも席がまだ空いているのなら、社員として、入らせていただけると嬉しい所存でございます。この小説を読もうとしたきっかけは、ラハルちゃんの紹介です。お考えの方よろしくお願い申し上げます。 (2018年7月3日 14時) (レス) id: 62a90d8188 (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - 浅葱さん» 頑張ります! ちょこちょこ更新しますね (2018年3月4日 21時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
浅葱 - すごい、面白いです!更新待ってます!! (2018年3月3日 13時) (レス) id: 2921f40b7a (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - 花園イリアさん» はい! おかげさまで突入できました! 不定期更新ですが、これからもよろしくお願いいたします(^-^ゞ (2017年5月5日 14時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
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