鯨波の声 9

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8話ページ8

「叔父上はなんと？アンナの事だ。当然、相談したんだろう？」
「深い意味は無いだろうから好きにしたら良いと。」

ハルは引き続きアルパ国に留まっているが、流星はアランの愛馬の姿でアルガン島にいる。
アランの代わりに家族を守るためだ。
時折アンナは流星に頼み、紅明と手紙のやり取りをしていた。

「じゃあ何を悩んでいるんだ」
「あの男が来る、って。」
「白龍帝か」

ズバリ、天敵である。

「でも、出れば最新の世界情勢を得られる。そこで悩んでるみたいです」
「「「「・・・」」」」」

えー・・・と。
どこの戦略家だ。
はっきり言って、大陸から遠く離れた島の田舎娘にそんな葛藤(かっとう)は不要だ。

「アンナはどこぞの王族にでも嫁ぐつもりなのかな？」
「はぁ。姉さんならやりかねませんけど、まあ、ないと思います」
「ない？」
「姉さんが幸せになるためには、紅明さんや紅覇さんも幸せにならないといけないんだそうです。だから、腹をくくれって紅覇さんに啖呵(たんか)を切ったそうで、お嫁に行って幸せにならない相手なら姉さんは受け入れないと思います」

自分基準！！
なんじゃそりゃ！

話を聞いて楽しそうに笑ったのは章妃だった。

「では、どこぞの皇子や王がアンナを見初め、アンナも幸せになれそうだと思えば、お嫁に行くということ？」
「そういう事ですけど。姉さんの皇子様は紅明さんですから。紅明さんを越える人なんかその辺に転がっているわけないです。」

確かに～。

ともあれ、アンジェはこの日から紅輝付きの侍女として働き始めたのだった。

《煌帝国内孤島》

何もない島だった。
育っている植物も細々としたもので、生きていく糧(かて)は定期船が運んでくる物資だった。

「明兄！僕にも読ませて！」

待ちに待った手紙が届いたのは、つい先日の事。アンナからの手紙で紅炎が救出されたことは知っていたが、紅炎本人から手紙が届いたのだった。

アランに助けられ、アルパ国に身を寄せていること。
父と名乗ることは出来ないが、息子の騎士として側にいられるようになった事などが書かれていた。

そして、重要な事が1つ。
ダビデの存在だ。

これは一国の問題ではなく、この世界存亡の危機だ。
シンドバッドの動向を見守り、自分たちも力を蓄えなくてはいけない。