鯨波の声 9

今日:8 hit、昨日:10 hit、合計:33,432 hit

37話ページ37

『本当に終わったのか？』
『お姉さんは関係ないんだね？』

そこから推測される可能性は・・・。

まさか・・・、紅炎が生きている？

そこまで考えてバカバカしくなった。
月が傾く時間まで、紅炎と一緒にいた。
紅炎は既に全てを受け入れ、自分の身より残される家族、家臣、国の事ばかりを案じていた。

紅炎が逃げるわけがない。

「モルジアナ、おいで。一緒にマスルールの所に行こう。待ってるよ」
「え・・・」
「あ！あと、レームのムー・アレキウス殿に付き添って、沢山のファナリスも入国してるから楽しむといいよ」
「ほ、本当ですか？」
「うん」

明らかにモルジアナの表情が明るくなった。
やはり、同胞に会える喜びは変えがたいものなのだろう。

アリババが死んだ事は紅炎から聞いていた。
アルガン島襲撃事件と重なって、直接会うことは叶わなかったが、ずっと気になっていた。

燃えるような髪に、すっきりした切れ目。

過酷(かこく)な人生を送ってきた少女にとって、恋とは正体不明すぎる感情で、愛とは幻のようなものだったのだろう。

ぎゅうっと力いっぱいモルジアナを抱きしめた。

「いっぱい頑張ったね、辛かったね」

必要以上の事を言わなくても、アリババの事だと瞬時に悟(さと)ったようだ。
モルジアナは抱きしめ返すような事はしなかったが、振り払うこともなかった。

「・・・いいえ。私は特に。アラジンや皆さんが・・・」

なんと続けようとしたのだろう。
ただ一点。
何かを見つけたように、視線がそこで止まった。

「ファナリスは愛情深い一族。1度絆を結べば生涯それを貫く。それが貴方達を苦しめてしまったけど、もう、終わりにしよう。」

モルジアナの視線の先にはマスルールが立っていた。
焦れて迎えに来たのかと思えば、案外面倒見が良い面もあったのだと笑ってしまった。

けれど、モルジアナはそれ以上進もうとはしなかった。
行っていいものか迷っているようだった。

「おバカさん。貴方はもう、自由でし
しょ」
背中を押すと、モルジアナは振り返りながらも、マスルールの元に走っていった。

さてと。
さっさと退散しようと思った時だ。見覚えがあるメンバーが慌てたようにこちらに向かってくるのが見えた。

「A様！」
「A様、ご無事でしたか！！」
「ああ、将軍達。久しぶり～。皆んな元気そうだね」
「はい！」

我ながらゆる～い感じで手を振ったのに、将軍達は歓喜余ったように泣き出してしまう始末である。