鯨波の声 9

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25話ページ25

「・・・白龍帝はなんと？」
「正式回答はありません」
「わかった。しばらく白龍帝の出方を見よう。」

やれやれだ。

「紅輝様がお慰めになられれば、アンナ様のお怒りも治るのでは？」

いざとなれば、アンジェという切札(きりふだ)もこちらにはある。
妹であるアンジェが慰めれば、アンナも矛(ほこ)を収めるだろう。

「それはそうだけれど、今、本国とバルバッドは膠着(こうちゃく)状態にある。私が出て行っておかしな事になってはいけない」
「左様でございますね」

賛同するように秋明が頷いた。

「失礼いたします、紅輝様。アルパ国、パット前国王陛下よりの使いが見えております」
「お通しして。恩義(おんぎ)ある方の使いだ。くれぐれも失礼のないように」

アルパ国。そのワードだけで、紅輝の胸が高鳴った。
少しでも父の消息がわかるだろうか。
わからなくてもいい。その方を通じて、「あなたの妻子は無事に生きています。」そう、伝わって欲しかった。

公務用の衣装に着替え、来賓室向かうと、褐色肌と短く整えられた黒い髪。服の上からでもわかる鍛え上げられた体躯(たいく)と、厳しく躾(しつけ)けられたのであろう軍人独特の仕草が目に飛び込んできた。

「お待たせしました。練紅輝です。」
「モラン・レンと申します。主人よりの手紙を預かって参りました」

ふと、顔を上げた時、『ん？』と思った。会ったことがない人物のはずなのに、どこかで見たことがあるような・・・。
彫りの深い美丈夫だ。
一度会った事あれば覚えているはずなのだが、思い出せない。

「貴方も『れん』と言うのですね。はは、世界は広い」

秋明越しに手渡された手紙を広げると、菓子の礼が書いてあった。

「確かに。迎賓館に入られた際には是非遊びにいらっしゃってください、と伝えてください。私は新参者で、仲良くしてくださると嬉しいです」

微笑みかけると、紅炎は「承知しました」とだけ答えて頭を下げてしまった。
外交を務める使者としては愛想がない。

「紅輝様、お呼びでしょうか」
「ああ、バルカーク。同席を。アルパ国の方だ。」
「左様ですか！バルバッドのバルカークと申します！！」

アルパ国は、アラン所縁(ゆかり)の国だ。
バルカークは1度2度会っただけだが、あの愛くるしさと暴動寸前のバルバッドを救うべく、眷族達に立ち向かっていったアランに、バルカークは深く感謝しているのを紅輝も知っていた。