その能面、俺が剥がしたる【宮侑、宮治】

恋 ページ29

目の前のあまーい香りを放つ、ふわふわとした大きなパンケーキに二人して見蕩れてまう。

「こんなの、食べちゃっていいのかな…？」
「食べなきゃあかんやろ！」

俺のはバナナチョコパンケーキ。Aちゃんのはストロベリーバニラパンケーキ。勿体なくて食べられない、というように色んな角度からパンケーキを眺めるAちゃんは、子供みたいやった。


「パンケーキにバニラアイスなんて大罪な気が…」
「今日くらいえぇやんか。俺も共犯やで」


ちょっとした冗談にも「共犯だね」とクスクス笑う。フレーム越しの瞳が細く、柔らかくなる様子に、俺は隠しきれん想いを感じた。

「いただきます」と二人手を合わせて、ソワソワしながら1口に切る。溢れるくらいのソースと苺を乗せた1口を口に運ぶと──────。



「美味しい…！！」



ぶわっ、と大輪の花が咲いたように、Aちゃんは笑った。あぁ、ええな。いつ見てもそう思う。思えば俺は、この瞬間が堪らなく好きなんや。

だからずっと、食堂で気にしとった。食券売り切れた時からきっと。能面を剥がして、その下の笑顔を見たくてしゃあなかった。


「おはむくん、ふごふおいひい…！」
「はは、うまいなぁ」


もうパンケーキに夢中になってるAちゃんをじっと見つめる。何処までも素直で、純粋で、優しくて、それでいて、笑顔がかわえぇ。

笑顔が見たくて、見たくてしゃあないけど、でも。今度からは、俺が笑顔にしてやりたいな、なんて。俺の前ではずっと笑っとって欲しいな、なんて。そんな欲張りな気持ちが自然と生まれた。


…あぁ、せや。そうなんや。






(…好きなんやなぁ、俺)






そのとき初めて、俺はAちゃんに対する感情に名前を付けた。その感情は、恋やって。欲張りんなるのも、恋なんやって。

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