雨と傘 ページ23
いつもよりAの元へ行くまでの道のりが長く感じた。
傘をさす間もなく雨を受けながら走って走って、漸くAの元へたどり着く。
杏寿郎の予想通り、傘には所々穴が空いて、Aはぽたぽたと雫を垂らしながらただ佇んでいた。
杏寿郎は1度止めて足をまた動かした。足が地面につく度にぬかるんだ泥が草履に飛んで、着物に新たな柄を作ってしまう。
バシャバシャと近づく音にAは何事かと思って右を向いた。すれば杏寿郎が傘を手に全速力で走ってくるものだから目を瞬かせる。
今日は二人の世界を作り出す霧もない。辺りに広がるのは夜の闇と雨の音だけ。
杏寿郎はぽたぽたと雫の垂れる自分髪の毛に気にせずに傘を差し出した。
「それでは濡れてしまいます。この傘を差し上げますから」
ずい、と傘を差し出す杏寿郎に戸惑いながらもAは頑固にも首を振った。
「…いいの、この傘じゃないと駄目だから。この傘じゃないと私だって気づいて貰えないかもしれない」
強がっていたAの瞳が徐々にじわりと滲んでいく。
気づいて貰えない?そんなことあるはずないだろう。だって、ずっとずっと、自分のことを想いながら待っててくれたんだ。
もし自分が、Aに望まれている"煉獄杏寿郎"であったなら。
Aが自分を待っている姿を想像する。寂しげな表情を一気に輝かせて、駆け寄って。抱き締めれば「おかえり」と言ってくれる。
「わかります」
いつの間にかそう呟いていた。それまで拳を握って涙に耐えていた桜色の瞳が杏寿郎を見詰める。
杏寿郎はその緩められた手を取って、ぎゅう、と握り締めた。離さないように。この冷たい肌に杏寿郎の心の炎が、あたたかな温もりが伝わるように。
その胸の内の苦しさを埋められるように。
「気づきますよ。貴女がここで待つ限り。貴女が一途に想い続けて待つ限りは──────好いた女性が待っているなら」
杏寿郎はそう低く囁いてじっとAを見つめた。熱い炎をゆらりゆらりと灯した情熱的な瞳にAがほんの少し目を奪われたようだった。
「俺がもしその方の立場であったなら、雨が降ろうとも、目を潰されようとも、手足をもがれようとも
────この生命が尽きようとも、貴女の元へ帰ってこよう」
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時