雨と恋という熱 ページ24
杏寿郎は握っていた手の指先へとすす、と指を滑らせてAを真っ直ぐに見つめた。
普段瞳孔の開いた力強い瞳は、今や恋という熱を帯びた宝石の様にAの心を揺さぶる。
そうして数秒見つめた後にその手に開いた傘をぎゅう、と握らせた。
「貴女に辛い思いはして欲しくない…。俺からの願いだ」
す、と手を伸ばすとAは肩を揺らしてから唇をきゅっと結んで杏寿郎を見つめた。無意識であろうが、戸惑いを含んだ瞳は扇情的で杏寿郎は鼓動が早くなるのを感じた。
片方の手を丸い頬に添えながら、着物の中に忍ばせておいてなんとか濡れなかった手布で濡れた髪の毛や顔を拭いている最中、Aは羞恥に耐えられなくなって俯いた。
その様子がとても歳に反して初々しいく、愛らしくて思わず笑みを零すと、Aは不満げな瞳を杏寿郎に向けた。
──────凶暴だった雨はいつの間にか、弱々しく穏やかな雨になって。
ぽつぽつ、ぽつぽつ降り続けていた。
その日ずぶ濡れで帰った杏寿郎であったが、般若のような顔をした父に迎えられた。
母も父の傍らでキッとした表情で杏寿郎を咎めるように見つめている。
唯一そんな兄の味方である弟は夜も遅く夢の中にいた。
『道端に猫が捨てられいたのを思い出したので濡れないように傘を置いたのです!』
苦し紛れにそう言うと両親はそれまで強ばらせていた表情をぽかんとさせて呆れたように笑った。
大会での疲労に加え雨に打たれたことで、その翌日から杏寿郎は風邪を引いて寝込んでしまったが、Aのいじらくして愛らしい様子が見られて大満足であった。
また、杏寿郎を看病する弟は兄が寝込みながらも幸せそうにしている様子に首を傾げながらも見守っていた──────。
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時