雨傘の下で君を待つ【煉獄杏寿郎】

雨と瓜二つ ページ22

今にも倒れてしまいそうな程弱りきった老人の言葉に杏寿郎は「はい」と答える。


実は鬼殺隊に関する資料や書物を読んでいる時に鬼殺隊員が使っていた【全集中の呼吸】を杏寿郎は会得していたのだ。



「それりゃあ凄い…、ところであんた、最後の炎柱にそっくりだよ。瓜二つだ」



"最後の炎柱"──────それは言わずもがな"煉獄杏寿郎"のことであろう。杏寿郎は目を見張った。


「わしゃもう100年以上生きとるから…炎柱をこの目で見たんだよ。あんたの竹刀を振るう姿と炎柱がまるで同じなのさ」


老人は極限に細くなった目を見開き、ずい、と杏寿郎を見上げた。







「あんた一体、何者だい?」









剣道場から出てくる頃、雨は本降りになった。いつもより激しく強い雨になると、ラジヲも告げていた。


杏寿郎は障子を開けて外の様子を見ようと試みたが、雨が家の中へと振り込む勢いだ。


杏寿郎は試合中もAのことを忘れてなどいなかった。分かっている、今日があの日であることを。"煉獄杏寿郎"の命日であることを。


こんな強い雨だ。Aが使っている番傘は和紙でできている。しかも長年使い込まれていたようだったから。



「傘が壊れてしまう…」




そうしたらどうなる？Aはそれでも、使い物にならなかった傘を刺し続けて待つんだろう。身体を雨に晒しながら。



「杏寿郎、冷えるからもっと中にいらっしゃい」



後ろから母の声がする。冷える。ではAは？冷え切って、冷え切って、そして──────。


一人この暗闇の中、雨に打たれる様子を想像してゾッとした。





「母上！急用が出来ました！」





そう告げると母は目を見開いて玄関へと駆ける杏寿郎の後を追う。


「待ちなさい、何処へ行くのです！こんな雨の中」


いつも感情を顕に出さない母が声を上げる。



(すみません母上。貴女が俺を心配するように、俺もあの人が心配なのです)





「大切な人が俺を待っているのです」





傘を手に握りしめ、杏寿郎は雨の中を駆け出して行った。

雨と傘→←雨と傷跡

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す