プロローグ ページ2
「この物語には一人だけ悪人が紛れています。
《物語の冒頭の私》へ、
聞こえていますでしょうか。
もし聞こえているのでしたら、聞いてください。
最後に断っておきますが、
こんな物語の冒頭も冒頭、始まりにも始まりにこんなことを言うのを許してください。
それでは本題です。
《結末の私》は、取り返しのつかない失敗をしてしまいました。
今の私はもう、戻ることはできず、
ただただ自分の無能を呪うばかりです。
考え得る限り、最悪の結末を演じることができたと思います。
そんなオチがわかっちゃった物語なんてー、
と読むのを止められてしまったら
責任を感じなくもないけれど、
でもここはあえて声を大にして言わせて欲しいです。
――この物語には一人だけ悪人がいた、ということを。
私は盲目な少女だった。
迂闊でした。
優しいパパには、かっこいいお兄ちゃん、可愛い先生に、楽しい仲間。
みんなが助け合い、励まし合い、
麗しく手を繋ぎ頑張っているのだと、私は信じて疑わなかった。
今ならわかる。
もしあのとき、その存在に気付いていれば、その人間の言っていることを信じることなく行動していれば……
あんな結末を迎えずに済んだのかもしれません。
でも――《物語の冒頭の私》なら、まだ間に合います。
そう、貴方です。
貴方ならあの人に騙されずに、最悪の結末だけは回避できると、《結末の私》は信じているのです。
その人間は狡猾(こうかつ)でした。
笑顔が絶えず、優しく見せているので騙されてしまうかもしれません。
そして甘い言葉で惑わし、物語を全て悲劇へと引き込んでしまいます。
気付いたときにはもう手遅れです。
善人の顔をしたその人は、貴方が後ろを向いたときだけ表情を歪(ゆが)めナイフを研(と)いでいます。
そう、今だって目を逸らしているときは舌なめずりをして此方(こちら)を見ています。
頼りになるお父さんか。
笑顔が絶えないお兄さんか。
誰よりも親身な担当医か。
友達が欲しい研修医か。
白を崇拝した博識家か。
――柵の向こうの少年か。
信じちゃいけない。
誰も、信じられない。
最初に言いましょう。
この物語には一人――悪人が紛れてます。
わかった時点で、その人を殺してください。
そうすれば、誰も死ななくて済んだはずです。
お願いです。
お願いです……」
貴方が殺してください。
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作者名:安里 | 作成日時:2013年9月16日 11時