【文スト】中原中也の奮闘記録

彼と彼と、彼 ページ37

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「―――悪いね中也」


そう云って太宰君が私の肩に腕を回した


横を通り過ぎる時、中原君が私の腕を掴んだ



「もう一度云う、逃す気は無ェ、必ず捕まえてやる」


と、前を見た儘云う彼の手を振り払って、その場を後にした



綺麗な青空のうららかなヨコハマの午後、私の気持ちは、曇天だ





＊





ポートマフィアから逃げて数日経った


「――これから如何するの？」


如何しよう

何のプランも無く、只中原君から離れたくて行動を起こしたのだが


今後の見通しが何も立っていない現状


太宰君が用意してくれた隠れ家にて暇を持て余していた


「ポートマイアは、秘密裏に君の捜索にあたってるみたいだけど、中也が動いてるって情報はないよ？」

『………何が云いたいのかね若者』

「君も充分若いと思うのだけど」


ちらりと、向かいに座る太宰君を見上げる

意味ありげに首を傾げた彼



―――若さ、ねえ…



『……若し、自分が死んで、生前の恋人が一ヶ月足らずで他の男に気を許していたら、君は如何思う？』


只の気紛れの質問、こんな事太宰君に訊いたって仕方ないのだけど


「嫉妬するだろうね」

『そう……』

「でも、生きてる人間には太刀打ちできない、その代わり彼女の心の中にはずっと住める」

『………』

「恋敵の男も又、死んだ人間を忘れさせる事はきっと出来ない、その代わり超える事は出来る、フェアな試合じゃあないか、外野の君は深く考える事ないよ」

『…私の話だなんて一言も云ってないんだけど』



いつの間にか登場人物を私にすり替えて話す太宰君、「そりゃ失礼」と、戯けて笑った

いかにも、あの人が云いそうな論考だ



『君は本当に似てるなあ、彼と』

「そう？なら私にする？」

『遠慮しとくよ、心中は絶対にしたくないもの』


残念、と笑う太宰君は、これから仕事に行くらしい、「鍵は開けた儘で構わないからね」と、胡散臭いウインクをして席を立った


食えない男である



あの時、中原君があそこに来なかったら、彼がもっと莫迦だったら、心残りなんて直ぐに消えてただろうに

異能力を交換したいなんて云っていた彼に、最後の最後で心を読まれてしまった


―――あれだけ逃がさないだなんだって豪語しておいて探さないなんて、ずるいなあ、中原君は


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