【ジョジョ4部】蠱惑的インクルージョン (ページ35)

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Aの家はいつも静かだ。それは両親がいてもいなくても変わらない。

しんと静かな家を不満に思ったことはなかった。おそらく両親もそうだろう。余計な物音のしない家は、自分のやりたいことに集中させてくれる。

親のいない日中は家の全てがAの城になるので、ダイニングテーブルに教科書を広げて勉強することも多い。今日もそうやって課題を片付けていた。

ピンポーン。

静けさの反動で、チャイムが鳴るときは必要以上に驚いてしまう。

誰だろうとAは首を傾げた。
牛乳の配達や郵便は朝のうちに届くし、家族から宅配便を頼んだとも聞いていない。セールスだったら嫌だなぁと、念の為ドアスコープを覗き込む。

「！？」

ボリュームたっぷりにまとめられたリーゼントヘアが見えて、Aは別の意味で息を飲んだ。

ドアを開ける前に確かめおいて良かったと思う。彼は随分ドアの近くに立っていて、普通に開けていたらせっかくの髪型にぶつかっていただろう。

「ひ、東方くん…？」
「グレートA！おめーがいてラッキーだぜ～！」

そろっとドアを開けると、彼は前のめりに挨拶してきた。顔が近いのは上背のある体を丸めているからだ。

今更フレンドリーさに驚きはしないが、いつにも増して近いような。間延びした話し方も、脱力感が強い。

「どうしたの？ひょっとして具合悪いんじゃ…っていうか、怪我してるじゃあない！」
「どっから説明すっかなァ～。とりあえず大事はねーんだけどよ」
「中入って。応急処置くらいなら私にもできるから」
「グレート、助かるぜ」

いつもの癖で視線を逃していたせいで、彼の頬が上気しているのに気付くのが遅れた。至近距離で合わせた瞳も熱っぽい。

それより衝撃的だったのは、瞼から血を流していることだ。乾いて固まっているように見えるが、Aにとっては十分おおごとである。

客間のソファーに仗助を案内すると、倒れ込むように腰を下ろした。

客人にはコーヒーか紅茶を淹れたいところだが、急いでグラスに水を注ぐ。
怪我もそうだし、足取りがおぼつかないのも気になった。
大急ぎで手当てを済ませて、改めて飲み物を勧める。

「お水飲める？やっぱり具合悪そうだけど…」
「おめーは本当に気がきく奴だぜ。これでちったあマシになってくれりゃあいいんだが。簡単に言うとよ、俺すげー酔っぱらっちまってて」
「……東方くんお酒飲んだの！？」
「そこまでヤンチャしねーっすよ～、仗助くんは」