#129 ページ23
.
"おかけになった電話番号は___。"
『…』
何回聞いたかわからない機械音声。
増える不在着信の項目。
きっと私からの電話は着信拒否にでもしてるのだろう。
鞄を手にとってそのまま家を出る。
スマホで新幹線があることを調べて、駅まで急ぐ。
すぐそばを通ったタクシーを捕まえ、走り出したその間に会社に連絡を入れる。
『立花です。…急ですみません、1週間ほど休みをいただきたいです…。はい。…溜まった仕事は帰ってすぐに終わらせます。必ず。…はい、ありがとうございます』
怒りを抑えたような声の部長にもう一度謝って電話を切る。
…最後までわがまま言っちゃったな。
この1週間の休みが終わったあと、また1週間経てば私は東京に行っちゃうのに。
『…』
窓の外を流れる風景を眺める。
夜を連れて日は沈んでいく。
_____
___
_
東京に着いたのは、11時を過ぎる頃で。
彼方のことだから起きてる可能性は高いけど…それは"いつも"の話で。今この状況だとどうなんだろう。
悩みながら歩き続ければ、遠くに彼方が住むマンションが見えた。
チン、と鈴のような音をたててエレベーターが扉を開く。
彼方の部屋がある階数ボタンを押して、静かに扉を閉める。エレベーターの駆動音が響いて、少しの浮遊感。
また、チン、という音がしてまた扉が開く。
『ここの角を右…』
たくさんのドアが並ぶ通路を歩いて、奥まで進む。
そして、たったひとつのドアにたどり着く。
『ふう…』
ポーチから青色のビーズストラップが着いた鍵を取り出す。
それを差し込んで、音をたてないように回せば、かちゃりと鳴った。
いつでも入ってきていいよ、と付き合いたての頃に渡された合鍵。
別れてからもまだ持ってて、付き合い直してからもずっと使っている。
『お邪魔します』
重たく感じるドアを開けた。
ひんやりとした廊下を少し歩けば、リビングに通じるドア。
光が漏れ、微かに音楽が聞こえる。
…起きてるんだ。
ドアノブに手をかけて、少し深呼吸。
何か言われたらどうしよう?
私が原因でもっと追い詰められたら?
私が邪魔をしてしまったら?
…別れることになってしまったら?
ふるふると頭を振る。
どんな結末になろうと構わない。私が側にいて、最後まで彼を支えればいい。
ドアノブを握り直して、足を踏み入れた。
「…梓、…」
『久しぶり。彼方。』
.
342人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ