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「これは俺の独断だけど、彼方さんの心の拠り所って梓ちゃんなんだよ。きっとそれは歌よりも上。」
『なんで、そんなこと言えるの』
「好きだからだよ」
翔太は、数年間口にしなかった言葉を言い放った。
「梓ちゃんを好きな気持ちは、一緒だから」
翔太は顔に影を落として、すぐにまた梓ちゃんを見つめた。
そして、ライブの時のそらるさんのように力なく笑う。…まるで、何かを隠すように。
「…彼方さんの側にいてあげてよ。あの人が本当の気持ちを吐露できるのは、梓ちゃんしかいないの。…ちかさんや、僕たちじゃ代わりになれない」
連絡してあげて、と翔太は凛として言った。でも、どこかその声は震えていて。
ここまで彼はずっと気持ちを隠して、気丈に振る舞っていたのだと悟った。
それは梓ちゃんも同じのようで。
『わかった』
いつもとは違う、そしてどこか強さを感じる微笑みを浮かべて彼女は頷いた。
暫くして、僕は翔太の手をひいて梓ちゃんの家を出た。
一歩、また一歩と歩みを進めるたびに溢れる涙をぬぐいながら翔太も僕についてくる。
僕はただ何も言わずに、歩く速さを遅らせて隣を歩いた。
翔太はこぼれ落ちる涙と一緒に、拙く言葉を落とす。
「俺さ」
「うん」
「梓ちゃんのことずっと好きだったの」
「うん」
知ってたよ。
翔太が梓ちゃんを見る目は、あの人を想う楓ちゃんと同じだったから。
「久しぶりに、好きって口にした」
「うん」
「忘れてたかったのになあ…」
星が瞬く。
そして、月は笑った。
「____。」
夜に溶ける。
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こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
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