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気が付いた頃、ジェベリアは立っていた。周囲にはいくつもの死体が転がっていた。それはただの死体ではなかった。血液が一滴残らず搾り取られた、ミイラのような死体。血の海すらできなかったその惨状を作り上げたのは自分だとジェベリアは理解した。
空腹も渇きもない。理性的に考える頭が戻ってきた。しかしジェベリアはあまりそれを喜ぶ事ができなかった。ジェベリアは周囲を見渡した。干からびた死体達の他には、建物の残骸があるのみだった。
ジェベリアはその中に、奇跡的に割れていないガラスを見つけた。のそのそと緩慢な動きで近寄り、覗き込む。本当は覗きたくなかったが、現実から目を背け続ける事はできないとジェベリアは知っていた。
そこにいたのは、おぞましいドラゴンだった。鱗のない皮膚……溺死した人間の死体のような、白くてぶよぶよとして、ねっとりとした粘液を垂れ流している皮膚。口は裂けて、唾液がしたたっている。呼吸のたびにむわりと生臭い香りがする。
生前の頃と変わらない、美しい柘榴のような目は、口の上に大量に散りばめられていて、蓮の根の断面を想起させる。人間のような腕が、二対。太く長くしなる尾が生えている。
何より吐き気がするのはその胴体である。女性そのもののような、女性らしさを強調するかのような、卑猥なそれ。大きな乳房と腰、括れた腹……。
そしてそれらの、穢れを思わせるような醜いものとまったく似合わない、不釣り合いなものが一つ。天使のような純白の翼。神々しく、清らかで、しかしかつてジェベリアが嫌悪したもの。
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夜(プロフ) - 素晴らしいお話、ありがとうございます。楽しみに待っています (2021年7月22日 13時) (レス) id: 1f55a4bce5 (このIDを非表示/違反報告)
つーちゃん - ください (2021年7月4日 14時) (レス) id: 84f4461b32 (このIDを非表示/違反報告)
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