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刹夢。 ページ30




「俺が他の女に惚れられるの嫌ってほざいてた割にお前には旦那がちゃんといるなんて」



意地悪な笑みを浮かべて少女に言ってみる。


彼女は抱いていた白猫を腕から離した。
周りに小さなネコがいて恐らく子供もいたんだろう。


幸せな家庭だったのだろうか。



『なぁに、浮気だって言って怒る?』


「浮気じゃなくてこれは不倫?」



我ながらどうでも良いなと思うような所で訂正に入る。



少女は同い年なのに生きる世界がまるで違くて俺よりもずっと大人だ。


「ねぇ…俺、ちょっと妬いちゃった」


可愛さを意識した訳では無いがぶりっ子したような声が自然と出てしまう。


再び彼女の胸元のネックレスを指に絡ませて見せる。




彼女の身体はもう既に半透明になりつつあった。



時間が無い。
消えてしまう前に。




彼女が最期に映すものは俺であるように。




「俺は不倫相手だけどいーい?」



『不倫ってやめてよ』



冗談だよ。


そう耳元で囁き髪を優しく撫でた。


撫でられるのが好きと言っていたのもお前が猫としての感覚を残していたから。



「ごめん、我慢できない。優しくもしない」




そしてまた口付けを交わす。


さっきと違うのは……



「んっ」



『んぅ、ぁ』




舌が入るか入らないか。





これを俺らのハジメテ(おもいで)にしようよ。





長くたっぷり口付けを交してゆっくりと離れる。




もうAさんは蕩けてしまっていた。





『くるしいっ、』




「Aっ」


急にテーブルに突っ伏すように砕け落ちた彼女をそっと支えるが既に君にはあの温もりは無かった。







ただ天からお迎えが来るのを待つだけの運命が辛かった。


未だかつて無い運命の無謀なる大きな壁に立ちはばかった俺は彼女を優しく抱き抱えるしか出来なかった。







『さとみ、ありがとうね。私に初めての温かい優しい愛をくれて』




今朝、夢で聞いたような言葉を彼女が言った。





「お前こそこんな俺に勇気をくれてありがとうな」






もう一度、指を絡ませる。






君の存在していた証拠である


感触、体温、声音、香気、全てを忘れないように。








もうこの先誰かに向けて言うことがないであろう

全てを、愛の言葉を、全力で君に送るよ。





「愛してる」






唇を彼女に再び近づけた時────────






無機質な金属の音が、俺の耳を割いた。




強い光が、俺の目の前を横切った気がした。

悲壮。→←嫉妬。



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作品ジャンル:恋愛
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢‪🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時

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