30分。 ページ13
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結局会話はそこで打ち切られて再びベンチに
お互い腰を下ろし、暫く無言の時間が続いた。
俺は公園の時計に目をやりながら時の経過を恨んだ。
彼女と過ごせるのはいつも何故か30分のみだから。
「ねぇ、Aさんって家どのへんなの?」
思い切った質問だ。
人のプライベートに踏み込むような質問。
すると少女は再び悲しげな表情を浮かべて言った。
『場所は教えられないけど両親が既に歳で他界してるので一人暮らしです』
歳で他界?
俺ら17だろ、歳って言ってもせいぜい親だって40〜50代くらいだろうに。
…早死にか。
そう思いながら彼女を思うと胸が傷んだ。
無神経な質問をしてしまったと後々後悔する。
「そっか、じゃあいつも一人なんだ…」
黒いワンピースの少女はつり目でクールで何処か自立してそうなのに
少女はいつも1人で雨のように何処か脆くて儚い存在のようだ。
そんなAさんとお別れする時間がやってきてしまう。
────30分。
彼女は1人、そんな細い足で何処へ帰るのだろう。
「あの、もう30分経ちましたけど…やっぱり今日も帰るんですよね…?」
失礼のないように相手を傷つけまいと自然と敬語になってしまう。
それほど俺の中でAさんは大切な存在だった。
これまたワンピースとお揃いの黒いヒールを履き直した彼女が視線だけこちらに向け何かを俺に言うのだがそれがよく聞こえない。
「……ん、何だって?」
『ねぇさとみさん』
「うぉわっ!?」
パチッと靴の金具の音がすれば勢いよく俺の胸板に
頭を押し付けてくる。
その姿はまさにデレた猫のようだ。
ふわりと甘い香りがしてツヤツヤな
黒髪を俺は優しく撫でた。
『今日さとみさんのお家誰もいないんですよね…』
"良かったら泊めてくれませんか"
彼女が上目遣いでそう聞けばもう俺に拒否権なんてねぇしそもそも断る理由が1ミリも見当たらないんだわ。
「……俺の家でいいなら、どうぞ」
この子と夜を過ごしたい、
とかそういう下心ではなくて
普通に、
普段1人で家で過ごす彼女の寂しさを思っての返事だった。
この子を1人にさせたくない。
ただその思いだけが俺を突き動かす。
────────この時俺は、
これがAさんの最初で最後のお願いだと
気付くことはなかったのだ。
────────気づいていれば、
もっと何か違うことをしてやれたかもしれないのに。
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眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時