18ー1 Sweet has come【野坂悠馬】 ページ41
「バレン、タイン?」
「えっ、知らないの?」
何だい?と首を傾げて彼は尋ねる。
「て言われても…」
私は言葉を詰まらせた。
隣の観客席に腰かけている彼、野坂悠馬の通う王帝月ノ宮中学は、男女交際を一切禁止されているそう。
というのは、新世代教育プログラムと謳われる、
所謂、英才教育ともされる「アレスの天秤」システムを適用させるために、娯楽や色恋沙汰などといった、システムの妨げになるような行為は許されていないらしい。
思春期真っ只中の彼らにそんなの、息が詰まってしまう。
私なら投げ出していると思う。
それを知っての上で、私は野坂に近づいては交際に発展させるよう仕向けている所だ。
ダメと言われたら尚更跳ね返したくなる。
人間誰しも、そんなものでしょ?
…なんて、つくづく私は酷い性格をしてるなあって我ながら思う。
当初、恋愛のれの字も知らない野坂に心底驚かされた。
そんな彼とサッカーの試合がある度に顔を合わせて、そこから知り合い、いつの間にか一緒に観戦するまでの仲に発展して今に至るわけだけれど、
「へえ、"世界各地のカップルの愛の誓いの日とされる"か」
「ま、まあそんな所かしら…」
…これ以上の発展を期待してもいいのだろうか。
スマホを器用に操作し、一人納得しながら彼は言う。
バレンタイン、渡したかったんだけど。まさかその日の存在自体まで知らなかったとは思わなかった。
今までどんな生活を送ってきたんだろう。
背中越しにカサッと、彼にあげようと思って作ってきた、チョコレートの入った袋が小さく音を立てる。
私は、野坂と数々のサッカーの試合を観戦してきた。
そんな中彼は観戦中に、手に取るように選手の思考や動きを読み取っては正確に分析していく能力だけではなく、
彼自身がサッカープレイヤーとして、フィールドを駆ける姿に一時も目を離せなかった。
そんな感情に名前を付けるなら、"恋"で間違いない。
「じゃあAさんは、僕のことが好きなんだね」
こちらを見ることなく、淡々と野坂は言い切った。
待て?
今までの会話のどこをどう摘んでそんな解釈になった?
「その背中にある物は、まさしくバレンタインデーにまつわる物、そうだよね?」
用意していたプレゼントを指差し指摘され、ぎくりと背中に衝撃が走った。
好きだって伝えるのも、
チョコレートを手渡すのも、
しっかりプランを立ててきたはずなのに。
全部が私の中で音を立てて崩れた。
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Setsuki.(プロフ) - 風丸の話の時に彗星ガールズの歌詞の一部があって感動しました!← (2019年3月28日 21時) (レス) id: 77812d9344 (このIDを非表示/違反報告)
Zero - 彼方さん» 有難うございます(感涙)! (2019年3月17日 10時) (レス) id: fec557507a (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - Zeroさん» リクエストありがとうございます!話数の関係でもしかしたら次の小説に移動しちゃいますがまたその都度更新させていただきますね(*´`) (2019年3月16日 19時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
Zero - リクエストお願いします!!難しいと思いますけど、不動さんって書けますか?無理だったら全然良いです!! (2019年3月16日 15時) (レス) id: fec557507a (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - 妄想乙娘さん» 全て読んでいただけたんですね!(;_;)とても嬉しいです!これからも頑張ります!ありがとうございます(〃´-`〃) (2019年3月12日 21時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彼方 | 作成日時:2019年3月4日 8時