18ｰ2 ページ42
「うん。そーだよ」
がくりと肩を落として、呟いた。
自分でも驚くくらいに冷えた声色だった。
そして背に隠していた袋を取り出して、野坂の胸にそれを押し付けた。
「好きなんだよ、野坂のことが。お察しの通りでした。よく気づいたね、おめでとう」
こんな皮肉めいた言葉で伝えるはずじゃ、なかったのにな。
思うままに行かないこの現実と恥ずかしさと、自分の不器用さと不甲斐なさに嫌気がさして涙が出た。
こんな情けない顔を見られたくなくて、黙って野坂に背を向けた。
「どうして、泣いているの？」
不意に背を向けた私を不思議に思ったのだろう、背中越しに大好きな声が投げかけられる。
仕方ない。
彼はバレンタインというもの以前に、恋愛というものすらよく分かっていなかったのだから。
期待なんてしてはいけない。
これからもこの距離で十分だ。高望みなんて以ての外。
そう思っていると、
ふわりと、背中に優しく重りがかかった。
同時にほのかに香る優しい匂いが鼻をくすぐる。
驚きを抑えられない。
今私、野坂に抱きしめられている、らしい。
止まらない涙を拭う私の手を制するように、彼の手が重なった。
「こっち向いて、Aさん」
「やだ。こんな顔、見られたくない」
「どうして？」
「野坂が好きだから！！」
瞬間、重なる野坂の手がピクリと揺れた。
ああもうヤケだ。
好きだなんてさっきまでの自分なら言葉に出来なかっただろうに。
不思議なことに、一度言ってしまえば何度でも言葉にできる気がした。
「聞いて。Aさん」
「……」
「僕は今まで、好きや恋や愛だとか、そういうものとは無縁だと思っていたんだ」
「…ん…」
「でも今この、胸がざわついて熱くなる感じは、言うなればAさんが教えてくれた恋だというものなら、僕は君に好意を持っているんだろうね」
よく、分かってないんだけどね。と彼が微笑む。
おかしいよね。
自分のことなのに、分からないだなんて。
でも私には分かった。
遠回しな言葉だけどつまり、
「それ、って…」
抱きしめられる腕に少しだけ力が入った。
「Aさんが、好きだよ」
ーー彼も、私と同じ気持ちだったということ。
私はくるっと振り返って、彼に正面から抱きついた。
背中に回る腕が愛しい。
好きだよって伝えてくれた声が、言葉が愛しい。
この日、私と野坂は、確かに愛を誓った。
▽
ここ試合会場なのに何してるんですかね()
19ｰ1 オリオンの輝きが朽ちるまで【灰崎凌兵】→←18ｰ1 Sweet has come【野坂悠馬】
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 87人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Setsuki.(プロフ) - 風丸の話の時に彗星ガールズの歌詞の一部があって感動しました！← (2019年3月28日 21時) (
レス) id: 77812d9344 (このIDを非表示/違反報告)
Zero - 彼方さん» 有難うございます(感涙)！ (2019年3月17日 10時) (レス) id: fec557507a (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - Zeroさん» リクエストありがとうございます！話数の関係でもしかしたら次の小説に移動しちゃいますがまたその都度更新させていただきますね(*´`) (2019年3月16日 19時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
Zero - リクエストお願いします!!難しいと思いますけど､不動さんって書けますか?無理だったら全然良いです!! (2019年3月16日 15時) (レス) id: fec557507a (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - 妄想乙娘さん» 全て読んでいただけたんですね！(；＿；)とても嬉しいです！これからも頑張ります！ありがとうございます(〃´-`〃) (2019年3月12日 21時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：彼方 | 作成日時：2019年3月4日 8時
