35‐初めて見た ページ35
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ぐらりと傾いた実弥を右側から何とか支える。
触れた彼の体は尋常じゃない位燃えていた。
「熱ッ…実弥、体温計はどこ?」
「……ベッドの、」
「そこまで歩ける?」
こんなに重症だなんて思っていなかった。
気まずさなんてどうでも良くなって、実弥を必死でベッドまで連れて行く。
多少乱暴にはなってしまったが実弥をベッドに横たわらせると、サイドテーブルに置かれていた体温計を彼の脇に挟む。
「ッ実弥、昨日からこんな熱…?」
「38度台なら、昨日よりマシだなァ……」
表示された38.2の無機質な数字に身震いした。
子供の私ならまだしも、大人になってからのこんな高熱はかなりしんどい筈。
汗はかいているのに冷たい指先が物語っている。
「実弥。いきなり押しかけてごめん。何か出来る事はある?」
「……その、袋の」
「これ? 色々買ってきたけど。何が良い?」
「…プリン…」
唇まで真っ白な彼が所望したのはプリンだった。
来る途中で、玄弥が実弥の好きなものを用意してくれたおかげだ。
スポドリとかも一応買ったけど、玄弥が言うには、実弥は相当の甘党らしい。
若干震えた手でプリンを受け取って、付属のスプーンで掬って食べようとする。
「……あ」
「ああっ、こぼしちゃった。ティッシュ…」
「そこにある」
「大丈夫? 食べづらい?」
上手く口の開かなかったせいで、少しばかりプリンが布団の上に落ちる。
小さな染みを作ったそれを眺めて実弥を見上げると、物欲しそうな顔で私とプリンをちらちらと見た。
「……お前が、食わせて」
「えっ」
「また、こぼす」
掠れて熱い息のかかった声で、私にプリンとスプーンを手渡す。
いつもより舌っ足らずで緩慢な口ぶりでそんな風に見つめられると、断るわけにはいかない。
「はい、…あーん」
「…ん」
「どう? 食べれる?」
「んめェ」
躊躇した手も、一度やってしまえば戸惑いはなくなる。
ぱくぱくとプリンを完食するまでスプーンを彼の口に運び続けた。
この調子じゃ、もしかしたら雑炊とか作っても食べられるかもしれない。
立ち上がると私を目で追う実弥が、いつもの100倍は幼くてかわいかった。
「冷蔵庫とキッチン、勝手に使っていいなら雑炊作るけど…ダメ?」
「……いや……」
「分かった、待ってて」
私が部屋の扉を閉める時、実弥は少しだけ寂しそうな顔をしていた。
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k - おそらまめさあああああああん、、(4回目)いや、あの最高でした。胸きゅんってこういうことを言うのですね、、やはり実弥のかっこよさは最高ということですね。(?) (6月15日 23時) (レス) @page46 id: 5d2f3eba17 (このIDを非表示/違反報告)
ha0824du(プロフ) - 赤の他人で恐縮ですが言わせてもらうと文才すぎやろ〜才能爆発やん!の二言です。ありがとうございます。はい。 (2022年10月6日 22時) (レス) @page46 id: 0233a38cc7 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 39ページ 舌を見ると の 舌 は 下 ではないでしょうか? (2021年6月4日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - Lunaさん» Luna様、最後までご愛読ありがとうございました!最後は少し駆け足になってしまいましたが、胸きゅんお届けできて嬉しいです(^^)かっこいい実弥さんは永久不滅です! (2021年5月29日 1時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - はじめまして。胸きゅんの素敵なお話ありがとうございました。実弥さんかっこよすぎましたっ!! (2021年5月28日 16時) (レス) id: acb6885805 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年10月22日 21時