34‐傾く体 ページ34
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__1回。2回押しても、相手の応答はない。
……これ、もしかして寝てるのでは?
だとしたら私は物凄く迷惑なのでは?
と言いつつも中々インターホン前から動き出せない自分は、最後に一回だけ、一回だけ押して出なければ帰ろう、そう決めてもう一度入力をしようと人差し指を動かした時。
『……あ?』
「ッ、ぇあ」
受話器の取られた音。
低く掠れた、しゃがれ声。
このテレビインターホンの先に実弥が居るのだと思うと、途端に声が出なくなった。
『お前』
「お、お見舞いに! ……玄弥から、聞いて!」
『……』
あっちからは、きっと私のあたふたしている様子が見えているんだろう。
どぎまぎしながら、買ってきたビニール袋を顔の横まで持ってきて揺らす私のこめかみからは汗が伝った。
応答が無くなった。
もしかして、無視られてしまった?
なんて思っていたけれど、直後、高そうなマンションの入り口が音もなく開いた。
これは紛れもなく、実弥が開けてくれた証拠だ。
閉まる前に慌てて中に入る。
これ、向かっても良いって事、だよね?
どうすればいいんだろう。ドアノブに袋提げておく?
いやいや、それは失礼だよね。折角見舞いに来たって言ったのに。
悶々と悩みながら重い足取りで真っ白な廊下を歩いていると、5歩先の部屋の扉がおもむろに開けられる。
そちらに視線を移す。開いたのは108だ。
「……さ、実弥……」
「……」
上下グレーのスウェットに身を包んだ実弥が部屋から顔を出す。
真っ白な髪に加えて、今日は顔色も真っ白で、服と相まって雪みたいだ。
思わず身を引きたくなるが、実弥は扉を開けたままじっとこちらを見つめる(睨む)。
それからちらりと私の左手の袋に目をやると、片手で扉を制したまま体を部屋の中に反転させた。
「え、……ええっと」
「何してる。…寒ィんだよ」
「わっごめんなさい…!」
肩を縮こめる実弥は裸足だ。
もこもこのコートを着た私でも寒いのだから。慌てて閉まりかけた扉の隙間に入り込んだ。
外気が遮断されて、外の音も全く無くなった部屋の中は静まり返っている。
気まずさにどうしようかと、俯いている視線を実弥に移した時。
「……実弥、大丈夫?」
「…大丈夫じゃ、ねェ」
ふらふらと廊下を進む実弥の隣に立った時、揺れ動いた実弥が私の方へ体を大きく傾けてきた。
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k - おそらまめさあああああああん、、(4回目)いや、あの最高でした。胸きゅんってこういうことを言うのですね、、やはり実弥のかっこよさは最高ということですね。(?) (6月15日 23時) (レス) @page46 id: 5d2f3eba17 (このIDを非表示/違反報告)
ha0824du(プロフ) - 赤の他人で恐縮ですが言わせてもらうと文才すぎやろ〜才能爆発やん!の二言です。ありがとうございます。はい。 (2022年10月6日 22時) (レス) @page46 id: 0233a38cc7 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 39ページ 舌を見ると の 舌 は 下 ではないでしょうか? (2021年6月4日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - Lunaさん» Luna様、最後までご愛読ありがとうございました!最後は少し駆け足になってしまいましたが、胸きゅんお届けできて嬉しいです(^^)かっこいい実弥さんは永久不滅です! (2021年5月29日 1時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
Luna(プロフ) - はじめまして。胸きゅんの素敵なお話ありがとうございました。実弥さんかっこよすぎましたっ!! (2021年5月28日 16時) (レス) id: acb6885805 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年10月22日 21時