15.5日目 ページ26
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2人の方へ伸ばしかけた手を戻す。
そんな俺の様子を2人が見逃すわけがなくて、顔には驚きの表情が浮かんでいた。
「さかた、なんで」
驚くのも無理はない、ぽつりと呟かれた言葉に俺は聞いていないフリをして、2人の方へ視線を向けた。
「俺さ、今手放したくない子おんねん」
かわいくて、大事で、小さくて、俺がいないとだめな子。
どうしようもないほど俺に依存する、可愛い子が。
「………それ、月下Aって子のこと?」
彼女の名前が浦田さんの声で紡がれる。
やめて、やめろ、彼女の名前を呼ばないで。
同時に、Aちゃんから浦田さんの匂いが一瞬でもした時のことを思い出す。
彼女の名前を呼ぶのは俺だけでいいのに。彼女の中身は全部俺で作られていればいいのに。
「…当たり、みたいやね?月下って子が教えてくれたんよ、ここのこと」
「っおいセンラ、それはちょっと語弊がある_____」
「Aちゃんは今、どこにおるん」
無意識にそう、2人の言葉を遮る言葉に出していた。
これ以上彼らの口から彼女のことについて聞きたくない。
彼女のことを知っているのは俺だけでいい。
だけど現実は非常だ。
俺に、聞きたくない事実ばかり浴びせてくる。
まあこればかりは俺が聞いたことだけど。
「あの子なら今、まーしぃと一緒にいてもらってる。ここにいたら絶対話し合えるものも話し合えないだろ?」
「それまでの見張り兼暇つぶし役や、話がついたらちゃんと帰ってくるはずやで……って、坂田?」
まーしぃと、Aちゃんが、一緒に。
嫌だ、そんなこと、絶対に、許せない。
ダンッ、と鈍い音が響く。
俺は本能のままに浦田さんを玄関の扉に押し付けて迫っていた。
センラも突然のことに追い付いていないのか、俺たちをただ見ているだけだ。
言いたいことがまとまらないままのせいで、言葉にならない状態で口がはくはくと動く。
今すぐ離して、あの二人を。
「………返してや、Aちゃんのこと」
俺の、大事な人を。
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*叶愛菜** - うわあああ!好きっ!(語彙力) (2019年2月15日 18時) (レス) id: 04e70c44c5 (このIDを非表示/違反報告)
つぼみ - 普段の坂淡には味わえないヤンデレが見えて、とても引き込まれました1いつかでいいので、さかたんの優しい甘酸っぱい、そんな小説を読みたいです! (2018年10月27日 15時) (レス) id: af4d084e07 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいたろう(プロフ) - ありがとうございます!これからも他のお話等頑張って下さい(^^) (2018年8月28日 20時) (レス) id: 142b9ac1f9 (このIDを非表示/違反報告)
史緒(プロフ) - ゆいたろうさん» 嬉しい言葉ありがとうございます!頭の中で考えてはいたのですが結局書かずにいました笑感謝の気持ちとして、番外編という扱いでそちらをまたちまちま付け足そうと思います、ゆっくりお待ちください! (2018年8月27日 23時) (レス) id: ed6dc68708 (このIDを非表示/違反報告)
ゆいたろう(プロフ) - 凄く面白くて完結してもずっと読み返してます!そこで気になったのですが、14、15、16日目で本編では志麻さんと主人公のシーンになっていますが、坂田さんとうらたさん、センラさんがいる家ではどのようなやり取りがあったのでしょうか?今更でごめんなさい! (2018年8月27日 22時) (レス) id: 142b9ac1f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:史緒 | 作成日時:2018年8月11日 0時