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翌日火曜日。
快斗君と一緒に帰る約束をしていた私は、学校の最寄り駅にいた。学校で待っていろということだったのだけれど、流石にそれは悪いし、この時間は沢山の音高生が駅にいるため一人でいても特に不安はない。彼が来るまでどこで時間を潰そうか......と辺りをキョロキョロと見遣れば、突然左肩に衝撃が走った。
『−−−っ!』
咄嗟にバイオリンケースを両腕で抱えれば、後ろにバランスを崩して尻餅をついてしまう。そのため反利き手に元々持っていた鞄の中身が煩い音を立てて床に散らばってしまった。ズキズキと痛む臀部と道行く人から何事かと見られる視線の数に、顔がジワリと熱くなる。
「−−−すみません、急いでいたもので。」
男の人の声がする。まさかぶつかっただけで転ばれるとは思わなかったのだろう。矢継ぎ早に大丈夫か?と私の状態を心配するような声が頭上から聞こえてきたため意を決して見上げれば、そこには眼鏡をかけた短髪の男性が立っていた。スーツを着ているということは、仕事帰りのサラリーマンというところだろうか。表情が固いその顔はどこか無愛想に思えるが、彼は私の散らばってしまった荷物を集め出すと、それらを鞄に入れて手渡してくれた。
『あ、ありがとうございます。』
すまないがこれで失礼する、と言って私が言葉を発する間も無く、その男性はそそくさと去っていってしまった。
『−−−イタタ....』
スカートの埃を払いながらどうにか一人で起き上がると、近くにあった休憩スペースの椅子に座りこむ。鞄を漁り、快斗君からの返信を確認するためにスマホを取り出そうとした時だった。
「−−−おや、Aさんじゃないですか。」
そんな私に声をかけてきたのは、知り合いに酷似しているあの人だ。彼はその日に焼けたような顔を綻ばせながら私の隣に座った。
「−−−今、学校帰りですか?」
頷いてから、彼を見上げる。安室さんはこんな所で何をしていたのだろうか。
「そういえば、先程あの辺りで拾ったのですが−−−このスマートフォン、Aさんの物じゃないです?」
彼の手にはスマホが握られている。慌ててそのスマホを拝借しホーム画面を見やれば、とても見慣れた画像があった。アプリを開けば快斗君からの返事も数分前にきていて、電車の遅延でほんの少し遅れる、とのことだった。
『−−−私のです、さっき人とぶつかって転んじゃって。』
「それは災難でしたね、お怪我はありませんでしたか?」
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