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彼の答えに、意外だと目を見開く。てっきり赤色が好きなのだと思っていたからだ。驚きを隠す事なくそう告げれば、それはfamily nameが赤井だからだろうと彼は苦笑いを浮かべていた。
「−−−黒は良い......知られたくない自身の内面を覆い隠してくれる。」
『−−−何だか、哲学的な理由だね。』
「−−−まぁ、同じ理由で嫌いな色でもあるがな。」
『.............。』
それは好きな色とは言わないのでは......と口端をヒクつかせた。
「黒と言えば....」
秀一さんの言葉に首を傾げる。黒川病院の医院長が殺害されたらしいな、と彼は言った。まるで緑川病院を彷彿させるその名前を耳にすれば、反射として眉間に力が入ってしまう。黒川病院と言えば、個人病院の割に結構な規模の病院じゃなかっただろうか。
「−−−おそらく今はどの番組も」
秀一さんが備え付きのテレビの電源を点ければ、各局でそのニュースが流れされているところだった。捕まった犯人は元患者の遺族だった!と強調し、報道されている。医院長の犯した医療事故により、亡くなってしまった患者の実妹が怨恨を積もらせ続け......その結果、犯行に及んでしまったらしい。何とも悲しい事件だった。
『−−−何だかこういうのを見ると、少しだけ怖くなるね。他人事じゃない、というか。』
秀一さんは私の言葉を聞いて、フッと笑った。
「−−−この事件に関しては、自業自得の面も大きいがな。」
『..........。どうして?』
「−−−黒川氏は泥酔した状態で患者の心臓の手術を敢行した結果、事故を起こしている。その事実を知った患者の妹が、裁判を起こして闘おうとしたのだが病院側に揉み消されてしまったらしい。今回の事件はそれが発端のようだな。」
『..........もしかして緊急オペ?』
「−−−予定オペの方だ。黒川病院に予め入院していた患者だった。」
業務時間外に止む無く医院長が緊急手術をしなければならなかった場合は−−−ある意味では仕方ないのかもしれない。実際にそう言う話は聞いたことがある。それでも判断力が著しく低下していると明らかに分かっていながら、医院長とはいえその医師をオペレーターとして起用することは通常ありえないけれど。それに今回の件は緊急ではなく予定手術だという。そういった手術で飲酒をし、しかも医療事故を起こしてしまったのならもう目も当てられないだろう。自分が思っていた以上の最悪の真相に、両手を強く握りしめた。
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